【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2023.05.02】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22NI1601
利用課題名 / Title
窒化物薄膜の磁気特性と輸送特性に関する研究
利用した実施機関 / Support Institute
名古屋工業大学 / Nagoya Tech.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed
キーワード / Keywords
磁気特性測定システム,スピントロニクスデバイス,量子効果デバイス,資源代替技術
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
強 博文
所属名 / Affiliation
名古屋大学大学院工学研究科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
浅野 秀文
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
日原 岳彦
利用形態 / Support Type
(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
NI-015:振動試料型磁束計
NI-016:高感度SQUID磁化測定装置
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
近年、カイラル磁性体におけるDzyaloshinskii–Moriya 相互作用(DMI)起因の磁気スキルミオンが微小サイズ及びトポロジカル安定性を有することで、次世代スピントロニクス材料として期待されている。その中のほとんどが強磁性スキルミオンである一方、反強磁性スキルミオンは有効磁場のキャンセルにより、スキルミオンホール効果の消失、高周波数低電流密度駆動等々、強磁性スキルミオンよりも優れた性能とスピントロニクス応用ポテンシャルを持っていると期待されてつつ、その実現及び検出が課題となっている。本研究は充填型β-Mn構造Mo窒化物Fe2-xPdxMo3N(FPMN)薄膜を用いて実用化可能な室温強磁性スキルミオンを実現しており[1]、同構造のCo2Mo3Nバルクが反強磁性を示し[2]、PdドープしたCo2-xPdxMo3N (CPMN)薄膜を用いて反強磁性スキルミオンの実現及びデバイス応用のための磁気スキルミオンの電気的検出手法を探索した。
実験 / Experimental
Quantum Design (America) 社製の磁気特性測定システムMagnetic Property Measurement System (MPMS3) を用いてCo2-xPdxMo3N薄膜シリーズの磁化-外部磁場(M-H)及び磁化-温度(M-T)特性の評価を行った。Quantum Design (America) 社製の物理特性測定システムPhysical Property Measurement System (PPMS) を用いてCo2-xPdxMo3N薄膜シリーズの異常ホール効果、Fe2-xPdxMo3N (30 nm)/MgO (3 nm)/Pt (10 nm) トンネリング素子におけるトンネリング磁気抵抗効果の測定を行った。
結果と考察 / Results and Discussion
高感度のMPMS3-SQUID超伝導量子交渉デバイスと用いて磁場定着モードでC-サファイヤ基板上に成長したCo2-xPdxMo3Nエピタキシャル反強磁性薄膜シリーズの微小磁化の測定を行った。4 Kにおける磁場面直方向のM-H 曲線のPd組成依存性をFig.1 (a)に示す。x
= 0, 0.45薄膜試料においては明白な飽和磁化が観測されず、ノンドープのCo2Mo3Nバルクと同じようなコリニア反強磁性体でなると考えられる。 の組成領域においてはFe2-xPdxMo3N強磁性薄膜試料の約1/50ほどの微小磁化が観測された[1]。Co2-xPdxMo3N薄膜におけるM-T曲線のPd組成依存性をFig.1 (b)に示す。全てのサンプルにおいて、高温側に下向き三角形で表記しているネール温度TNと低温側に上向き三角形で表記しているスピンリオリエンテーション(spin
reorientation)温度TSR(カイラル強磁性/反強磁性体に存在する磁気転移であり、TSR以下の温度領域においてはカイラル磁性体が基底状態のスピンスパイラル構造に転移する[3])2つの磁気転移が観測されている.各温度における飽和磁化のPd組成依存性はFig.
1 (c)に示され、x = 0.6を境目に、Pdリッチ領域(x > 0.6)でPdドープによる磁化の増大が観測された。Co2-xPdxMo3N薄膜試料で観測された飽和磁化はFe2-xPdxMo3N強磁性薄膜の約1/50ほど小さいことより、反強磁性副格子のキャント(cant)により生じた磁化と考えられる。磁化測定からまとめた磁気状態図はFig. 1 (d)に示す。黒い点線がx
= 0.6の境目を表記し、左側はほとんど飽和磁化を示さない領域であり、右側は弱い飽和磁化を示しているキャント領域である。TN及びTSRはそれぞれ薄青い四角とコーヒー色の菱形で表している。TNとTSRの間の領域は反強磁性相であり、左側の薄水色領域はコリニア反強磁性相(AFM-Ⅰ)であり、右側の薄緑色領域はキャント反強磁性相(AFM-Ⅱ)である。TSR以下の温度領域はスパイラル相であり、左側の濃い水色領域はほとんど磁化を示さない長周期スパイラル相であることに対して、右側の濃い緑色領域は弱磁化を示す短周期スパイラル相である。AFM-Ⅰ相及びAFM-Ⅱにおいてはキャントによる磁化の増大が観測され、強いDMIが働いていると考えられる。スキルミオンの電気的検出にノンコリニアスピン構造に起因したスピン散乱から生じるノンコリニア磁気抵抗効果(non-collinear magnetoresistance, NCMR)を用いた。20 um * 20 um 広さのトンネリング素子から測定したNCMRはFig. 2に示す。FPMN (x = 0.32, 30 nm)/MgO (3 nm)/Pt (10 nm)トンネリング素子において4
Kと100 KにおけるNCMRはそれぞれFig. 2 (a), (b)に示す。比較のため、FPMN (x = 0.32, 50 nm)/おいて4
Kと100 Kにおけるトポロジカルホール効果をそれぞれFig. 2 (c), (d)に示す。トポロジカルホール抵抗の磁場依存性はスキルミオンの密度と有効磁場の大きさに依存することが従来から知られており、強磁性スキルミオンの電気的検出手法として確立されている。4
K と100 Kにおけるトンネリング磁気抵抗の絶対値はトポロジカルホール効果と同様の磁場依存性を示し、スキルミオンのノンコリニアスピン構造に由来するNCMRであることが強く示唆されている。トポロジカルホール効果の符号が磁場スイープ方向により反転していることに対して、NCMRの符号は磁場スイープ方向に対して反転しないことはトンネリング磁気抵抗効果のメカニズムによるものだと解釈されている。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
Fig. 1 (a) x dependence of M-H curves at 4 K with applied magnetic field perpendicular to film plane. (b) x dependence of M-T curves with 200 Oe magnetic field applied perpendicular to film plane. (c) x dependence of saturated magnetizations at 4, 200 and 300 K. (d) Magnetic phase diagram of Co2-xPdxMo3N.
Fig. 2 NCMR for a FPMN (x = 0.32, 30 nm)/MgO (3 nm)/Pt (10 nm) tunneling junction at (a) 4 K and (b) 100 K, topological Hall effect of a FPMN (x = 0.32, 50 nm) thin film at (c) 4 K and (d) 100 K.
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
引用文献:
[1] B. W. Qiang, et
al., Appl. Phys. Lett. 117, 142401 (2020).
[2] Wei Li, et al., Phys. Rev.
B 93, 060409(R), (2016).
[3] A. Zheludev, et
al., Phys. Rev. Lett. 78, 4857 (1997)
本研究は名古屋工業大学日原岳彦教授との共同研究である。
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
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Bowen Qiang, Magnetic phase diagram and vanishing topological Hall effect in the chiral antiferromagnet Co2−x
Pd
x
Mo3N, Japanese Journal of Applied Physics, 61, 120901(2022).
DOI: 10.35848/1347-4065/ac9a92
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B. W. Qiang, Magnetic and transport properties of chiral antiferromagnetic Co2−xPdxMo3N thin films, AIP Advances, 13, (2023).
DOI: 10.1063/9.0000454
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- [1] B. W. Qiang, T. Fukasawa, T. Hajiri, T. Ito, T. Hihara, and H. Asano, “Magnetic and Transport Properties of Chiral Antiferromagnetic Co2-xPdxMo3N Thin Films”, The 2022 Magnetism and Magnetic Materials Conference, (Virtual Conference, 3 Nov 2022).
- [2] B. W. Qiang, T. Fukasawa, T. Hajiri, T. Hihara, H Asano, and T. Ito, “X-ray magnetic circular dichroism study on skyrmion host chiral ferromagnetic Fe2-xPdxMo3N thin films”, IEEE International Magnetics Conference 2023, (発表決定).
- [3] 強 博文, 深澤 健留, 羽尻 哲也, 富樫 宣孝, 桑原 真人, 伊藤 孝寛, 日原 岳彦, 浅野 秀文 “カイラル反強磁性Co2-xPdxMo3Nにおける磁気状態と輸送特性”, 2022年第83回応用物理学会秋季学術講演会, (オンライン会議, 2022年9月22日).
- [4] 強 博文, 深澤 健留, 羽尻 哲也, 富樫 宣孝, 桑原 真人, 伊藤 孝寛, 日原 岳彦, 浅野 秀文 “磁気スキルミオンの観測及び量子輸送特性―強磁性から反強磁性へ”, 第86回日本磁気学会スピントロニクス専門研究会, (名古屋大学, 2023年1月13日).
- [5] 強 博文, 深澤 健留, 羽尻 哲也, 伊藤 孝寛, 日原 岳彦, 浅野 秀文 “充填β-Mn構造カイラル反強磁性体における磁気スキルミオンの量子輸送特性”, IEEE Magnetics Society 名古屋支部若手研究会, (名古屋大学, 2023年2月2日).
- [6] 強 博文, 深澤 健留, 羽尻 哲也, 富樫 宣孝, 桑原 真人, 伊藤 孝寛, 日原 岳彦, 浅野 秀文 “充填型β-Mn構造カイラル強磁性/反強磁性体における磁気スキルミオンの観測及び量子輸送特性”, 2023年東北大学RIEC共同プロジェクト研究会, (東北大学, 2023年3月3日).
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件