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末端だけが異なる高分子の精密分離に成功 ~医療,電池ほか幅広い材料開発への応用に期待~

 東京大学は2018年9月10日,同大学大学院 新領域創成科学研究科の植村 卓史教授らが,名古屋大学,滋賀大学の研究グループと協力し,分子で作ったナノサイズの空間を利用することで,高分子のほんのわずかな違いを識別して高効率で分離する手法を開発した,と発表した.本研究の一部は,国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の支援を受けて行われ,研究成果は国際科学誌Nature Communicationsのオンライン版で公開された(注).

 繊維や樹脂として日常生活で広く用いられている高分子材料は,様々な長さや構造の異なる高分子鎖の混合物となっている.そのため,所望の高分子を得るため分離・精製が必要とされる場合があり,高分子の大きさの違いやアフィニティーの違いを利用する手法が知られている.しかし,高分子の鎖の末端のみが異なる高分子の分離は,鎖が長くなるほど末端の影響が薄れるため既存手法の適用は困難であった.それに対し,本研究グループは,金属イオンとそれをつなぐ有機物からなり,規則的なナノサイズの空間を有する多孔性金属錯体(MOF)に着目し,末端の異なる高分子の新たな分離手法を開発した.MOFはこれまで低分子の吸着・分離に用いられており,本研究は,これを高分子に拡張する目的で,末端を修飾したポリエチレングリコール(PEG)を例に,その分離を試みたものである.PEGはドラッグデリバリー媒体や全固体二次電池などの広い分野で利用されているが,末端を様々な官能基で修飾して機能化した末端修飾PEGは,その分離・精製の困難さが問題とされている高分子材料である.

 PEGの溶液をMOF([Zn2(1,4-naphthalenedicarboxylate)2triethylenediamine]n細孔サイズ:0.57nm)に接触させた実験によると,末端が水酸基(-OH)の未修飾PEGは細孔内に取り込まれてMOFに吸着するが,末端がトリチル基(-C(C6H5)3,サイズ0.72nm)で修飾したPEGは細孔に取り込まれず,MOFへの吸着も見られなかった.この現象はモノマーの繰り返しが数百個以上もある高分子量のPEGでも変わらず,未修飾と修飾PEGの混合物から所望のPEGを99%以上の純度で分離できた.すなわち,高分子中のわずか数百分の1の違いであっても,MOFによりPEGの分離が可能であった.さらに,トリチル基以外に,ヒドロキシル基,メトキシ基,エトキシ基,ブトキシ基で末端修飾したPEGにおいても,MOFを用いた識別が可能であった.末端基の立体障害効果と極性の違いによるMOF開口の変化で,末端の微妙な違いが識別されると考えられる.PEG末端の違いによるMOFに対する吸着挙動の違いは,分子動力学法によりコンピュータシミュレーションでも確認された.

 MOFの構造を適切に設計すれば,目的に合わせて末端修飾PEGを高純度に分離できることが分かり,学術分野のみならず産業的にも有用な結果が得られた.研究グループでは,今後,MOFをカラムに充填したクロマトグラフィーの検討や,他の高分子材料や油脂類の分離・精製への展開を図りたいとしている.

(注)Benjamin Le Ouay, Chikara Watanabe, Shuto Mochizuki, Masayoshi Takayanagi, Masataka Nagaoka, Takashi Kitao, and Takashi Uemura, "Selective sorting of polymers with different terminal groups using metal-organic frameworks", Nature Communications, Vol. 9, Article number: 3635 (2018) DOI: 10.1038/s41467-018-06099-z; Published 07 September 2018