ナノテク情報

安全・一般

大気中のすす粒子による地球温暖化効果 ~個々の粒子の大きさや被覆量の違いを考慮する重要性を解明~

 名古屋大学は2018年8月31日,同大学大学院環境学研究科の松井仁志 助教と米コーネル大学のNatalie Mahowald教授らの研究グループが,大気中に放出されるすす粒子による地球温暖化効果に関する最先端の計算法を用いた数値シミュレーションを行い,これまでの計算法では十分に考慮されていない個々の粒子の大きさや他成分による被覆量の違いを高い精度で表現・計算することが,すす粒子の地球温暖化効果を精度よく推定する上で不可欠であり,将来の削減対策や温暖化対策を評価する際にも重要であることを明らかにしたと発表した.この研究は,日本学術振興会・科学研究費助成事業,環境省・環境再生保全機構の環境研究総合推進費などの支援のもとで行われ,成果は,英国科学誌Nature Communicationsに掲載された(注).

 化石燃料・バイオ燃料の燃焼や森林・草原の火災によって大気中に排出される,粒径50~200nm程度の炭素を主成分とする黒いエアロゾル(大気中微粒子)はBlack Carbon(BC,すす)と呼ばれ,太陽光を吸収し地球大気を加熱する効果を持つ.その効果は,二酸化炭素やメタン次いで3番目に大きく,地球温暖化の要因の一つと考えられている(IPCC第5次報告書).すすの大気加熱効果は,大気観測や,全球エアロゾルモデル(地球全体についてのエアロゾルの排出,大気中の輸送・変質,降水などによる除去等のプロセスを考慮して時空間分布を求めるモデル)を用いて数値シミュレーションによって推定される.しかし,世界の様々なエアロゾルモデルでの指定結果に大きいばらつきがあるのが現状の問題である.

 近年の観測によって,大気中のすすは様々な粒径・被覆量を持つことが分ってきた.すすの粒径により質量濃度は同じでも数濃度は異なり,単位質量当たりの太陽光吸収量が変わる.また,すす粒子は大気中で徐々に硫酸塩エアロゾルや有機エアロゾルに被覆され,この部分がレンズの役割を果たして太陽光を集光し,すす単位質量当たりの光吸収量は最大で2倍程度増大する.従来のモデルでは,これらの効果を取り込んでいなかった.

 今回,研究グループは,まず,個々の粒子の被覆量の違いを細かく区別したシミュレーション(新たな粒子表現)と,区別しないシミュレーション(従来の粒子表現)について,大気加熱効果におよぼす影響を調べた.その結果,前者では,排出粒径の違いによってすすの大気加熱効果の推定値が2倍以上に大きく変わることが明らかになった(大気加熱効果の変わる範囲:新たな粒子表現では0.24Wm-2,従来の粒子表現では0.035Wm-2).この理由は,排出直後の粒径の違いによって,すす粒子が大気中に浮遊している間におこる凝縮(粒子上への気体成分のエアロゾルへの変化),凝集(粒子同士の衝突,合併),大気や雲内での化学変化,降水等による大気からの除去などのエアロゾルプロセスの速度が変わり,その結果,すす粒子の粒径・被覆量に違いが生じ,光吸収と大気加熱効果が大きく変わるというメカニズムによることが,分かった.

 この結果は,大気加熱効果の推定には,個々の粒子の被覆量の細かい区別,排出直後の粒径の正確さが重要であることを示しており,大気観測による粒径の正確な把握と,エアロゾルモデルによる個々の粒子の被覆量の違いを区別することの必要性を示唆している.

 また,この結果は,将来のすすの削減対策や温暖化対策の評価においても考慮すべき事項としている.

(注)Hitoshi Matsui, Douglas S. Hamilton, and Natalie M. Mahowald, "Black carbon radiative effects highly sensitive to emitted particle size when resolving mixing-state diversity", Nature Communications Vol. 9, Article number: 3446 (2018), DOI: 10.1038/s41467-018-05635-1; Published 27 August 2018