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従来の定説を覆す新規なFT合成触媒 ~コバルト含有量の大幅削減に成功~

 富山大学と国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)は2018年8月14日,富山大学 大学院理工学研究部の椿 範立教授らが,中国 天津大学の李 新剛教授,田 野講師らと共同で,Fischer-Tropsch(FT)合成触媒のコバルト使用量を大幅に削減可能なカプセル型FT合成触媒を開発した,と発表した.本研究はJST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の研究課題「超空間制御触媒による不活性低級アルカンの自在転換」の一環として行われ,成果は英国科学誌Nature Communications速報版で公開された(注).

 天然ガスやバイオマスから得られる合成ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)を原料とし,軽油などの石油代替燃料や化学品を合成するFT合成の触媒には,コバルト(Co),ルテニウム(Ru),鉄(Fe)の3種類の金属が知られている.Fe触媒は軽油のような液体炭化水素よりLPGのような軽質炭化水素が多く作られ,またRu触媒は,活性は高いが価格も高いという特徴がある.このため,液体炭化水素合成を主目的とする商業生産で利用されるFT合成触媒には,Coが多く使用されている.このCoは数年で交換が必要となるが,近年は電気自動車用途などのCo需要増大によりFT合成触媒のコストも上昇し,FT合成触媒のCo削減が求められるようになってきた.これまでのFT合成触媒では,Coはシリカなどの触媒担体表面にナノ粒子として固定されており,このCoナノ粒子上で一酸化炭素がカルベン(CH2)を経て触媒的に線形重合することで高級炭化水素(液体炭化水素)が合成される.得られる炭化水素分子の長さはCoナノ粒子のサイズに依存し,大きなCoナノ粒子からは鎖長の長い分子が,小さいナノ粒子からは鎖長の短い分子が合成されるという考えが定説となっていた.

 本研究で開発された触媒は,メソポーラスなシリカ粒子内部に,均一なサイズの酸化Co(Co3O4)ナノ粒子を分散させたもので,スイカをシリカ粒子とすればCo粒子はその内部の種に相当するカプセル構造である.この触媒を用いたFT合成では,Coナノ粒子が小さいと分子鎖の長い軽油やジェット燃料が,Coナノ粒子が大きいと分子鎖の短いLPGや軽質オレフィンが生成し,これまでの定説とは反対の結果が得られた.実験では,Coナノ粒子サイズが7.2nmの場合は,66.2%の選択率で軽油相当のC10からC20の炭化水素が,また,11.4nmの場合は,62.4%の選択率でガソリン相当のC5からC11炭化水素が合成された.カプセル構造のように閉じ込められた空間内部では小さなCoナノ粒子表面のカルベン濃度が高く,一旦脱離した炭化水素が再吸着され易いため,炭素連鎖成長が急速に進行して長鎖の炭化水素が合成される.一方,カプセル内部でも大きなCoナノ粒子では,触媒表面のCo原子の配位不飽和度が低いため触媒表面と一酸化炭素との結合が弱く,カルベン濃度が低いことが分子鎖の短い軽質オレフィンが多く生成する理由と判明した.

 本研究によれば,FT合成触媒中のCo含有量を従来の30~40重量%を5~10重量%以下に削減可能であり,今後,研究グループでは商業プラントでの実用化を目指したいとしている.
 
(注)Qingpeng Cheng, Ye Tian, Shuaishuai Lyu, Na Zhao, Kui Ma, Tong Ding, Zheng Jiang, Lihua Wang, Jing Zhang, Lirong Zheng, Fei Gao, Lin Dong, Noritatsu Tsubaki & Xingang Li, "Confined Small-sized Cobalt Catalysts Stimulate Carbon-Chain Growth Reversely by Modifying ASF Law of Fischer-Tropsch Synthesis", Nature Communications, Volume 9, Article number: 3250 (2018), Published 14 August 2018, DOI: 10.1038/s41467-018-05755-8