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加工技術

ガラスのレーザー加工を従来の5000倍の速さで実現 ~電子機器の高性能化・低コスト化に期待~

 東京大学は2018年8月7日,同学大学院工学系研究科 機械工学専攻の伊藤佑介 大学院生,杉田直彦 教授らが,ガラスの微細精密加工を従来の5000倍の速さで実現するレーザー加工技術を開発したと発表した.本研究は,独立行政法人 日本学術振興会の科学研究費助成事業の支援により実施された.本成果は,米国物理学協会の速報誌Applied Physics Lettersにて発表され,表紙に選定された(注).

 電子機器や光学機器の高性能化のために,ガラス材料に微細加工を施す技術が求められており,フェムト秒(fs=10-15秒)レーザー加工が注目されている.極短パルスのfsレーザー照射により,ガラスのような透明な材料に対しても光を吸収させて,微小形状を作り出すことができる.しかし,ガラスのfsレーザー加工では多数回のfsパルスを連続照射する必要があり,加工時間が増大するという課題と,加工時に材料が急激に膨張し材料内部に応力波が伝搬してクラックが生成されるために精密加工が困難という課題もあり,実用化に向けた大きな障壁となっていた.

 これに対して本研究グループは,fsレーザー照射に長パルス幅のファイバレーザー照射を重ねて加工することで,2つの課題を一挙に解決した.Tiサファイアfsレーザー(波長780nm,パルス幅210fs,繰り返し周波数1kHz,パルスエネルギー64μJ,集光スポット径7.2μm)照射により,材料内部に瞬間的に高電子密度のフィラメント領域が形成される.そこに長パルス幅のファイバレーザー光(波長1070nm,パルス幅105μs,パルスエネルギー8.4mJ,集光スポット径12.0μm)を重ねて照射すると,光の吸収率が上昇した高電子密度フィラメント領域のみに選択的に吸収される.この手法を用いて,直径10μm,深さ133μmの微細孔を0.04msの加工時間(fsレーザー照射後のファイバレーザー光パルス幅)で形成できた.同等の微細形状を従来技術(1kHzで発振するfsレーザーのみ使用)で加工する場合には200パルスのfsレーザー連続照射で200msの加工時間を要していたので,従来の5000倍という超高速での加工となる.

 本手法におけるガラス材料の加工は長パルス幅ファイバレーザーによる熱的な蒸発が支配的であるため,fsレーザーパルスを多数回照射した場合のような多数の応力波は発生せず,材料内部にはクラックが形成されない.高電子密度フィラメント領域は一定時間を経ると緩和して消失するが,消失前であれば長パルスレーザーのパルス幅を制御することによって吸収させるエネルギー量を調整し,加工形状を制御できる.このように,fsレーザー照射によって瞬間的に形成される高電子密度フィラメント領域を活用することにより,ガラス材料への微細加工を超高速かつ精密に施す技術を確立することができた.

 本研究では,従来困難であったガラス材料の高速かつ精密な微細加工を実現した.本手法はガラスの微細加工技術を必要としている電子機器や光学機器をはじめとする多くの製品の高性能化,低コスト化に貢献すると期待される.さらに本技術は原理的にはガラスに限らず,様々な非金属材料に対して適用することが可能であり,今後より広範な領域で活用されると期待している.

(注)Yusuke Ito, Reina Yoshizaki, Naoyuki Miyamoto, and Naohiko Sugita, "Ultrafast and precision drilling of glass by selective absorption of fiber-laser pulse into femtosecond-laser-induced filament", Applied Physics Letters, Vol. 113, p. 061101 (2018); doi: 10.1063/1.5027421; Published Online: 06 August 2018