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有機トランジスタを使った多値論理演算回路の開発に成功 ~フレキシブルエレクトロニクスの高性能化に期待~

 国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)は2018年7月2日,NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点量子デバイス工学グループの若山裕グループリーダーと早川竜馬主任研究員らの研究チームが,2種類の異なる有機トランジスタを組み合わせることで,3つの値をスイッチできる多値論理演算回路の開発に成功したと発表した.本研究は,科研費挑戦的萌芽研究「分子超格子を使った分子トンネル素子の開発」の一環として行われ,その成果は,アメリカ化学会刊行のNano Letters誌にオンライン掲載された(注).

 有機トランジスタは,軽くて柔らかく持ち運びもしやすいことから,IoT社会の中心的な役割を担うと期待されている.この利点を活かしてウェアラブル素子も開発されている.しかし,現状ではセンサーやモニターなどの簡便な機能に限られており,大量のデータ処理や高速通信を実現するためにはトランジスタのデータ処理能力を飛躍的に向上させる必要がある.しかし 有機材料には電子線リソグラフなどの微細加工技術が適用できないため素子の微細化や高集積化が難しく,これまでとは異なる手法で高性能化を図らなければならない.そこで,本研究グループは新しい原理で動作するトランジスタを開発し,多値論理動作を実現し,集積度とデータ処理能力の大幅向上を狙った.

 開発した新トランジスタの構造では,ドレインから伸びたp型の有機半導体(α-6T)薄層の上にソースから伸びたn型の有機半導体(PTCDI-C8)薄層がゲート領域で重なりあいpnヘテロ界面を形成する.ゲート電圧を徐々に増加させたとき,初めにp型チャネルで電流が流れ,次いでp型とn型のチャネルにバランスよく電圧が分配されるような特定の電圧範囲ではドレイン電流が増加し,それ以上にゲート電圧を増加させるとドレイン電流が逆に減少するという負性抵抗的現象が現れる.これは,アンチ・アンバイポーラートランジスタと呼ばれる特異な特性の発現であり,有機半導体薄膜積層技術により実現できた.負性抵抗を使って集積度を向上させる提案は従来からあったが,従来は,低温に冷やさなければ電流の増減幅は30倍程度に留まっていた.これに対し今回の研究では,1000倍にも及ぶ世界最高の増減幅を,室温で実現できた.

 この新構造トランジスタのソースにn型有機電界効果トランジスタ(FET)をシリーズに接続し,そのFETのソースを接地し,新構造トランジスタのドレインを電源(10V)に接続し,両トランジスタの接続点に出力電極を設け,両トランジスタの共通の基板(p+-SiにAl2O3を介してPMMAを積層)を入力ゲートとしたスイッチ回路を構成した.ゲート電圧が低いとき(0~1V)には新構造トランジスタは導通状態でn型FETはオフ状態となる(電圧領域I:出力約7V).徐々にゲート電圧が増加すると(1~2.5V),二つのトランジスタに同程度の電流が流れる状態がある(電圧領域II:出力約2V).さらにゲート電圧を上げる(2.5V以上)と新構造トランジスタに流れる電流が減少し,n型FETは導通状態となる(電圧領域III:出力約0V).即ち,従来の2値論理(0,1)に対し3つの状態(0,1/2,1)の多値論理回路が実現できる.

 チャネルの寸法等の素子構造やゲート絶縁膜材料等の設計自由度があり,電源電圧の発表実験値(プレスリリースでは60V,Nano Letters論文では10V)より大幅な低減を確認しており,信号電圧レベルも0.1V精度で設計できている.これによりフレキシブルエレクトロニクスの新しい可能性が開けたとしている.

(注)Kazuyoshi Kobashi, Ryoma Hayakawa, Toyohiro Chikyow, and Yutaka Wakayama, "Multi-Valued Logic Circuits Based on Organic Anti-ambipolar Transistors". Nano Letters, 2018, Vol. 18, No. 7, pp. 4355-4359, DOI: 10.1021/acs.nanolett.8b01357; Publication Date (Web): July 2, 2018)