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300GHz帯で毎秒100ギガビットの無線伝送が可能な超高速ICを開発 ~未踏のテラヘルツ波周波数の活用を拓く技術として期待~

 日本電信電話株式会社(NTT)と東京工業大学は2018年6月11日,テラヘルツ波の周波数帯で動作する無線フロントエンド向け超高速ICを開発し,300GHz帯における世界最高データレートである100Gb/sの無線伝送に成功したと共同発表した.本研究の一部には,平成23~27年度 総務省の「電波資源拡大のための研究開発」による委託研究「超高周波搬送波による数十ギガビット無線伝送技術の研究開発」の成果が使われている.詳細は米国フィラデルフィアにて開催の国際マイクロ波会議 IMS2018で発表された(注).

 携帯電話やスマートフォンが世界中で普及し,将来に向けてより高速大容量の無線通信技術の開発が活発になっている.現在の4G(第4世代移動通信システム)では最高速度1Gb/sであるが,2020年以降の商用サービスを目指す次世代の5Gでは,28~110GHz帯の電磁波を使って10Gb/sまで無線伝送する技術を開発中である.さらに100Gb/sまで高速化するために,より広い伝送帯域幅を確保できる300GHz帯をはじめとするテラヘルツ波(周波数1012(Tera)Hz)の利用が検討されている.しかし,高い周波数であるために,送受信IC内部で各ポート間の不要信号の漏れが生じやすく,これまで十分に高い信号対雑音比(S/N)が得られなかった.このため,300GHz帯を利用したとしても,広い伝送帯域幅と高い変調多値数とを両立できず,数10Gb/s級の無線伝送に留まっていた.

 研究チームは今回,独自の高アイソレーション設計技術を考案し,この技術を300GHz帯無線フロントエンドにおいて周波数変換を担うミキサ回路に適用した.ミキサ回路は,局部発振周波数ポート(LO),無線周波数ポート(RF),中間周波数ポート(IF)の3つのポートを持つ.テラヘルツ波の非常に高い周波数の信号で動作させると,ミキサ回路や外部の実装に寄生する僅かな静電容量を介して,ポート間を不要信号が漏れてしまう.この課題に対して,λ/4(4分の1波長)線路とシリーズ容量を付加する高アイソレーション設計技術を適用し,ポート間アイソレーションを飛躍的に向上させ,伝送帯域幅の拡大とS/N向上との両立に成功した.また,インジウム燐の高電子移動度トランジスタ(InP-HEMT)でチップサイズ1mm角のミキサICを作成,これを組込んだ300GHz帯無線フロントエンドモジュールを試作した.試作した送受信モジュールを用いて,Back-to-back(送受直接接続,送受信アンテナ間距離:2.2m)で良好な16QAM(16値の直交振幅変調)信号の受信を確認,300GHz帯において100Gb/sの無線伝送に成功した.

 今回,1波(1キャリア)で100Gb/sの無線伝送を実現したので,将来的には300GHz帯の広い周波数帯域を活かして複数キャリアに拡張したり,MIMO(多重入出力)やOAM(軌道角運動量)等の空間多重技術を併用して,400Gb/s超の大容量無線伝送向け超高速IC技術としても適用できる.また,無線通信だけでなく,テラヘルツ波の活用が期待されているイメージング(画像化)やセンシング(感知)など様々な分野への展開も期待されるとしている.

(注)Hiroshi Hamada, Takuya Fujimura, Ibrahim Abdo, Kenichi Okada, Ho-Jin Song, Hiroki Sugiyama, Hideaki Matsuzaki, Hideyuki Nosaka, "300-GHz, 100-Gb/s InP-HEMT Wireless Transceiver Using a 300-GHz Fundamental Mixer", IMS2018(2018 IEEE MTT-S International Microwave Symposium), Session Th3F: THz and mm-Wave Sensing and Communication Systems, Th3F-5 (Thu. 14 June, 2018)