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密閉容器内の湿度を20%~80%まで制御できる新手法 ~導電性高分子への通電による湿度制御法を開発~

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)は2018年5月30日,ナノ材料研究部門 ナノ薄膜デバイスグループの向田 雅一 主任研究員,衛 慶碩 主任研究員らが,有機電極材料として開発されてきた導電性高分子PEDOT/PSSが高い吸湿性を示すことを見いだし,その性質を生かした簡単な湿度制御法を開発した,と発表した.本研究の詳細は,英国王立化学会(Royal Society of Chemistry,RSC)が発行するRSC Advances誌の電子版に掲載された(注).

 PEDOT/PSS(ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルフォン酸の複合体)は,導電性ポリマー材料としてエネルギー貯蔵・回収やフレキシブル回路などへの応用が期待されている.PEDOT/PSSは高い吸水性を持ち,電子回路への悪影響が懸念されているものの,吸水性の有効活用についてはこれまで検討されていなかった.一方,産総研ではPEDOT/PSSを用いた熱電変換の研究開発を進めており,その過程で,PEDOT/PSSが重量比で30%程度の吸湿性を持ち,20%程度の低湿度環境においても空気中の水分を吸収することを見いだした.PEDOT/PSSは,電気伝導性を担うPEDOT層をPSSの層状構造で挟んだ構造であり,高い吸湿性はPSS部分に起因する.本研究において,研究グループは,導電性のPEDOT部分に通電すると,発生するジュール熱でPSS層に保持される水分の放出を制御できると考えた.これを確認するため,PEDOT/PSSサンプルに数10A/cm2程度の電流を通電しながら重量変化を観察したところ,サンプルに流す電流が大きくなるほど重量が減少し,サンプル重量は当初の100mgから15mg以上減少した.さらに,電流を止めると重量が戻る現象も見られ,電流により水分の吸収・放出制御が可能であることが明らかになった.

 この結果を基に,湿度制御装置としての機能を実証する試験機が作られた.試験機は,密閉容器に容積1リットルのプラスチック容器を用い,内部に面積25cm2,厚さ約300μmのPEDOT/PSS膜を配し,設定された湿度に応じてPEDOT/PSSへの通電がON-OFF制御される構造である.作動させた結果,応答性に優れ,数分で設定湿度に達し,誤差±2%で20%から80%の間で湿度制御が可能であった.電源は単三電池1本で作動し,最も電流を多く必要とする湿度80%の設定では1日,最も電流の少ない湿度30%の設定では1週間以上の連続運転が可能である.一般的な環境条件(温度0~40℃,湿度20~80%)であれば,容器容量や使用目的に合わせてPEDOT/PSS膜の面積を調整し,高湿度を維持する場合は,PEDOT/PSS膜に予め水分を含ませ,低湿度を維持する場合は,PEDOT/PSS膜を高温で乾燥させておくことで対応が可能である.

 本研究によるPEDOT/PSSによる湿度調整は,通電による発熱部分と水分を吸収・放出する部分がナノメートルオーダーで近接しているため効率が良く,発熱も少ない.本研究により,生体の保湿,食品の保存,文化財の保全などの湿度管理に適した新奇なデバイスの開発が期待されるという.

(注)Qingshuo Wei, Masakazu Mukaida, Wuxiao Ding,  and  Takao Ishida, "Humidity control in a closed system utilizing conducting polymers", RSC Advances, 2018, Vol. 8, pp. 12540-12546; first published on 03 Apr 2018, DOI: 10.1039/C8RA01776J