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物性・原理

光による量子コンピュータの実現に大きく迫る手法を開発 ~従来の100億倍の誤り耐性~

 北海道大学,京都大学と国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)は2018年5月28日,北海道大学大学院情報科学研究科の富田章久教授,同博士後期課程の福井浩介氏,京都大学大学院 理学研究科の藤井啓祐特定准教授らの研究グループが,光を用いた量子コンピュータを現在の技術レベルで実現させる方法を開発したと共同発表した.本研究の一部は,JST戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「量子の状態制御と機能化」の支援のもとに実施された.本成果は,米国科学誌 Physical Review X に掲載された(注).

 量子コンピュータは,量子力学の重ね合わせの原理に基づく「量子もつれ状態」を利用することで,素因数分解や化学反応のシミュレーションなどを現在のコンピュータより遙かに高速に処理できることが期待されている.量子コンピュータの基本単位である「量子ビット」としては,超伝導の磁束,電子のスピン,光など様々な候補がある.光は,光波の振幅が連続的に任意の値をとれる点が他の量子ビット候補と異なり,比較的簡易に量子もつれ状態を生み出せるため,大規模な量子計算の実現に有利であるとされる.しかし,量子もつれ状態の大規模化の過程で誤りが発生しやすいという問題があり,初めに用意しなければならない光波の振幅の精度は通常のレーザ光のノイズの40分の1以下としなければならない.これは,370兆回の演算当り1回以下の誤りしか許されないことを意味し,現在の技術レベルでは達成が非常に困難であった.

 これまで本研究グループでは,光波の連続的な性質を活用することで量子ビットに発生する誤りを訂正する能力を最大限引き出す「アナログ量子誤り訂正法」を開発してきた.今回研究グループは,ノイズに高い耐性を持ち,実装面でも非常に有利な「トポロジカル量子計算」方式にアナログ量子誤り訂正法を適用した.さらに,光波の連続的な性質を活用して量子ビットに誤りが発生した確率を予測する方法を開発した.

 まず,予測された誤り発生確率を参照することによって,量子もつれ状態の大規模化過程で誤りを起こした可能性の高い量子ビットを取り除く手法を提案した.この誤り確率の高い量子ビットを取り除く手法を,トポロジカル量子計算を実行するために用いられる量子もつれ状態の生成に応用し,誤りに強い大規模な量子もつれ状態を構築できることを理論的に確認した.さらに,アナログ量子誤り訂正法をトポロジカル量子計算に適用した結果,振幅の精度が通常のノイズの1/10以下であれば量子コンピュータが実現できることを理論的に明らかにした.これによって,約1万回の演算当り1回以下の誤りまで許容できるようになり,これまでの方式と比べて約100億倍誤りに強い方式を開発した.この誤り率は現在の技術レベルでも到達可能であり,光を用いた量子コンピュータの実現に大きく近づいたとしている.

 本研究は,光を用いた量子コンピュータの現実的な構成法を世界で初めて明らかにした先駆的な理論研究である.今後は実験的実証をはじめ,この分野の発展がさらに加速すると期待される.

(注)Kosuke Fukui, Akihisa Tomita, Atsushi Okamoto, and Keisuke Fujii, "High-Threshold Fault-tolerant Quantum Computation with Analog Quantum Error Correction", Physical Review X, Vol. 8, p. 021054 - Published 25 May 2018; DOI: 10.1103/PhysRevX.8.021054