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光のない環境で結晶が壊れにくくなる現象を発見 ~物質・材料の新しい可能性~

 名古屋大学は2018年5月18日,同大学 大学院工学研究科の松永 克志 教授,中村 篤智 准教授,大島 優 大学院工学研究科博士後期課程1年の研究グループが,半導体結晶が光のない環境で異常に大きな可塑性(plasticity,変形し易さ)を示す現象を発見するとともに,そのメカニズムの解明に成功した,と発表した.本研究は,独立行政法人 日本学術振興会の科学研究費助成事業ならびに池谷科学技術振興財団の支援の下で行われ,一部の実験では,文部科学省「ナノテクノロジープラットフォーム」に支援を受けた名古屋大学超高圧電子顕微鏡施設の反応科学超高圧走査透過電子顕微鏡を利用した.また,この研究成果は,米国科学雑誌 Scienceに掲載された(注).

 シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)などの無機半導体は脆性(brittleness,もろさ)を示し,応力によって結晶が破壊される.一方,半導体の電気的性質が光によって変わることはよく知られているが,機械的性質に光がどのように影響するかは理解されていなかった.これに対し,研究グループは,硫化亜鉛(ZnS)単結晶の歪みに対する応答を,光環境を変えて観察し,光がある環境では脆性を示し,完全暗室内では可塑性に変わることを見出して,そのメカニズムを明らかにした.

 3mm角で高さ7mm程度のZnS結晶を,暗幕で光環境を制御できるようにした歪み試験機にかける.暗幕をかけない光がある環境では,応力をかけるとZnS結晶が壊れ,最長3 mm程度の細かな結晶に砕ける脆性を示した.ところが,歪み試験機を暗幕で覆い,暗室環境下では結晶が壊れることはなく,高さが4~5mmに縮み,茶色を帯びた透明結晶になった.この時の変形歪みは45%に達し,大きな可塑性が見出された.変形前後の吸光を分光光度計で測定すると,バンドギャップが歪みによって小さくなっていた.

 表面の微細構造解析が可能なレーザー顕微鏡で表面を観察,超高圧電子顕微鏡による明視野・暗視野法,ならびに原子分解能電子顕微鏡による高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡による内部観察を行い,さらに転位(dislocation)コア近傍の理想せん断構造における電子状態を第一原理計算により理論解析した結果,歪みに対するZnS結晶の,次のような振る舞いが分かった.

 ZnS中の結晶転位は,光励起された電子,正孔を捕獲し,捕獲された電子・正孔は転位と相互作用して不動状態になる.転位はこれにピン留めされた状態になって動けない.このため結晶が変形できず破壊され,脆性が現れる.これに対し,完全暗黒環境下では,転位がキャリアによって拘束されることがないため,動くことができ,結晶は双晶変形を起こして,可塑性を示すことになる.

 本結果から,半導体や絶縁体などのバンドギャップの存在する結晶において,光環境が変形メカニズムに強く影響することが分かった.研究グループは,本研究が,光環境制御による結晶製造技術の革新,並びに脆性材料の利用法や加工技術の革新などにつながることを期待している.

(注)Yu Oshima, Atsutomo Nakamura, and Katsuyuki Matsunaga, "Extraordinary plasticity of an inorganic semiconductor in darkness", Science, 18 May 2018, Vol. 360, Issue 6390, pp. 772-774; DOI: 10.1126/science.aar6035