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ポリマー光変調器を開発し世界最高速の光データ伝送に成功 ~データ爆発時代の通信デバイスを低コスト・省エネルギー化~

 九州大学と国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)は2018年5月15日,同大学先導物質化学研究所の横山士吉 教授の研究グループが,日産化学工業株式会社とともに優れた電気光学特性と熱安定性を持つポリマーの開発を,アダマンド並木精密宝石株式会社とともに超高速光変調器のモジュール開発を進め,従来の無機系光変調器では到達困難な光データ伝送の高速化と低電圧制御に成功したと共同発表した.本研究は,JST「戦略的イノベーション創出推進プログラム」における研究開発テーマ「フォトニクスポリマーによる先進情報通信技術の開発」の一環として実施された.本成果の詳細は,2018年5月14日~16日に米国で開催されたConference on Laser and Electro-Optics (CLEO 2018) で報告された(注).

 データセンター向けなど短距離データ伝送用のイーサネット光伝送では,データトラフィックの急増に対応して伝送速度は年々増加の傾向にある.光変調速度は25Gbpsから,最先端技術の100ギガイーサでは4チャネル並列伝送によって100Gbps,さらに次世代向け400ギガイーサの標準化作業も進行中である.実用化されている高速変調半導体レーザや光変調器は,化合物半導体や金属酸化物などの無機系材料を使用している.一方,有機系の電気光学ポリマー光変調器は,高速性に優れており,消費電力や製造コストの観点からも将来の光通信デバイス候補として注目されてきたが,実用化のためには熱安定性などデバイス信頼性の大幅な向上が必要とされていた.

 本研究グループは,高性能電気光学ポリマーの合成と光変調器の作製に取り組んできた.今回合成した物質は,ニオブ酸リチウムなどの無機結晶に比べて変調速度が2~3倍と,高い電気光学特性を持ち,低電圧(1.5V)で光変調できる.また,電気光学ポリマーは理論的に100GHz以上の応答特性を持つことが示唆されており,無機系・半導体系光変調器では到達が困難な超高速データ伝送の実現も期待できる.試作したポリマー光変調器は,光入力を2本のポリマー導波路に分岐し,一方の光導波路にデータ信号電圧を印加して光の位相を変調した後に,2本の導波路を1本に合流させるMach-Zehnder干渉型で,サイズは8mm×1mmである.今回の光伝送実験では,光の有無(On/Off)で1/0を2値変調する方式で56Gbpsの光信号を発生,PAM-4(Pulse-Amplitude Modulation, 4値変調)方式では112Gbpsの光信号を発生させることに成功した.さらに新規開発した電気光学ポリマーのガラス転移温度は180℃以上であり,105℃で2,000時間にわたり光変調器の特性は劣化しないことが確認され,熱安定性の課題を克服した.

 本成果の超高速(1チップで100Gbps超)・省電力・熱安定性を兼ね備えたポリマー光変調器は,世界で初めて実現されたものであり,今後,省エネルギーや低コスト化が望まれる光通信デバイス分野での利用が期待される.本研究グループでは,さらなる高速変調に向けて研究を進めるとともに,ポリマー光変調器は簡便な塗布技術で作製できるので,Si光集積技術と融合した小型・超高速・低消費電力の新しい光集積デバイスの創出にも挑戦する,としている.

(注)Shiyoshi Yokoyama, Guo-Wei Lu, Hiroki Miura, Feng Qiu, and Andrew Spring, "96 Gbit/s PAM-4 Generation using an Electro-Optic Polymer Modulator with High Thermal Stability", Conference on La-ser and Electro-Optics (CLEO 2018), paper SM3B.2, May 14, 2018