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水蒸気とニッケルを用いたダイヤモンドの高速・異方性エッチング ~非プラズマエッチングによる超低損失なパワーデバイスの創製に期待~

 金沢大学は2018年4月27日,国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)と共同で,金沢大学理工研究域電子情報通信学系の徳田 規夫 准教授らの研究グループが,産総研 先進パワーエレクトロニクス研究センターダイヤモンドデバイスチームの牧野 俊晴 研究チーム長らと共同で,究極のパワーデバイス材料であるダイヤモンドの高速・異方性エッチング技術を開発した,と発表した.本研究は,独立行政法人 日本学術振興会科学研究費補助金,および金沢大学戦略的研究推進プログラムの支援を受けて行われ,成果はScientific Reports誌のオンライン版に掲載された(注).

 電力の効率的な利用の鍵は電力制御を担うパワーデバイスが握ると言われ,現在主流のSiパワーデバイスに替り,電力変換に伴う損失を低減可能なSiC,GaN,Ga2O3,ダイヤモンドなどのワイドバンドギャップ半導体が注目されている.なかでも,ダイヤモンドは最大の絶縁破壊電界とキャリア移動度を持ち,熱伝導性にも優れる究極のパワーデバイス材料として期待されている.しかし,ダイヤモンドは硬度が高く化学的にも安定で,通常の半導体プロセスのようにエッチング加工してデバイス構造を作製することは容易ではなかった.現在のダイヤモンドデバイス構造の作製にはプラズマエッチングが用いられるが,エッチング速度が遅く,また周辺にダメージが生じてデバイス性能が劣化するという問題もある.本研究では,炭素がニッケルに溶解する固溶反応に着目し,新たなエッチングプロセスの開発が行われた.

 このプロセスでは,ダイヤモンド表面に設けられたニッケル層にダイヤモンドから炭素原子が溶解拡散する一方,高温水蒸気に接するニッケル層表面は酸化されてNiOが生成する.ニッケル層を拡散してNiOと接した炭素はこれを還元するとともに,炭素自身は気体のCO2やCOに酸化されてニッケル層から離脱するというサイクルが繰り返され,ニッケルに覆われた部分のみがエッチングされる.エッチング処理後のニッケル層は酸で除去される.ダイヤモンド単結晶(100)面にニッケル膜のパターン(厚さ約0.2μm)を蒸着法で作製し,1000℃の水蒸気中で3分間処理したところ,深さ46μm,側壁角度55度のトレンチが8.7μm/minのエッチング速度で形成された.(100)面は容易にエッチングされるのに対し,炭素共有結合が最も安定で,ニッケル層への炭素原子の拡散が生じ難い{111}面はエッチングもされ難い.これによりエッチングに異方性が生じ,{111}面が顕れるトレンチの側壁の角度は(100)面と{111}面の成す角度である55度となる.また,プラズマ処理で表面が荒れた{111}面にニッケル膜を付けて900℃の水蒸気で60分間処理したところ,表面粗さ(RMS)を処理前の700nmから,AFMによる測定限界以下(~10nm)にまで平坦化することもできた.

 研究グループは,本技術を用いることで,低損失かつ高耐圧の縦型トレンチゲートダイヤモンドパワーデバイスの実現とともに,切断や平坦化などのダイヤモンド加工プロセスへの応用も期待している.

(注)M. Nagai, K. Nakanishi, H. Takahashi, H. Kato, T. Makino, S. Yamasaki, T. Matsumoto, T. Inokuma, and N. Tokuda, "Anisotropic diamond etching through thermochemical reaction between Ni and diamond in high-temperature water vapour", Scientific Reports Vol. 8, Article number: 6687 (2018), doi: 10.1038/s41598-018-25193-2; Published online: 27 April 2018