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加工用高品質高出力レーザ光の長距離伝送で業界の常識を一新 ~情報通信を支える光ファイバ技術でものづくりを支えるレーザ加工技術を革新~

 日本電信電話株式会社(NTT)と三菱重工業株式会社(三菱重工)は2018年4月25日,NTTのフォトニック結晶光ファイバ(PCF:Photonic Crystal Fiber)技術と,三菱重工の高出力レーザ加工技術の融合により,kW級の高出力シングルモードレーザ光を加工に適した品質を維持したまま数10~数100mに渡り伝送することに成功したと共同発表した.本成果は,NTTが持つICT(情報通信技術)分野の研究開発成果を,三菱重工のエネルギー・環境,交通等の社会インフラ関連事業に適用する研究開発連携の中で生まれた.本技術の詳細は,2018年5月23~24日に大阪大学で開催されるレーザ加工学会 第89回講演会で報告される(注).

 レーザ加工技術は,切削・孔空け・溶接などの手段として自動車や航空機などの製造現場で幅広く利用されている.レーザ加工では光通信で使用する光の1万倍以上の高出力レーザ光を伝送する必要があるが,光ファイバで伝送できる光出力と距離には非線形光学現象で制限される物理的な限界がある.現在レーザ加工で広く使われているマルチモードレーザ光は,マルチモード光ファイバを使い,数100mに渡り伝送できる.しかし,マルチモードレーザ光はより高い加工精度が求められる用途には向かない.一方,より精密なレーザ加工に適した高品質で10kW級のシングルモードレーザ光は,既存のシングルモード光ファイバでは数mしか伝送できないので,数10mの光ファイバ伝送が必要な実加工には適用できなかった.

 NTTでは光通信向けに,光ファイバのコアを囲むクラッド部に多数の空孔を規則的に配列して光を閉じ込め伝搬させるPCF技術の研究を推進してきた.より高出力な光を伝送するために,光の通り道である“コア”の面積を拡大し,コアとクラッドの間の屈折率差を低下させる必要がある.そのためには,屈折率の変化を0.01%のオーダーで制御しなければならないが,従来の材料添加によりコアを形成する光ファイバでは不可能であった.ところが,PCFは光ファイバ断面内に形成した空孔の直径や間隔を調整することで,屈折率を微細に制御できる.このPCFでの屈折率の制御性を活用し,今回初めてレーザ発振器から出力される高出力シングルモードレーザ光を,レーザ加工に適した品質を損なうことなく数10~数100m先の加工現場まで伝送することに成功した.

 今回のPCF開発では,空孔直径dを一定としたまま,空孔間隔Λを空孔数で調整する準均一構造を考案し,dとΛの組合せを最適化した.従来の光ファイバの4倍以上となる,420kW-mの高出力伝送が実現できることを数値解析で明らかにした.実際に長さ30mの準均一構造PCFに,10kWのシングルモードレーザ光を入射し,既存の高出力シングルモード伝送用光ファイバにおける100 kW-mの2倍以上の270kW-m伝送が行えることを確認した.同様に長さ300mのPCFに1kWのシングルモードレーザ光を入射し,300kW-mの高出力伝送が行えることも確認した.

 今回の成果は,高出力レーザ光を精密加工に適した品質を維持したまま,業界の常識を超えた長い距離に渡り伝送することを可能にするものであり,レーザ加工技術の適用領域の拡大を加速し,あらゆる社会インフラ産業における製造技術の変革をもたらす技術として期待される.今後,三菱重工にて耐熱合金の孔空け加工や溶接などへの適用に向けた開発を進め,2019年以降の実用化を目指す,としている.

(注)藤谷 泰之,“フォトニック結晶構造ファイバによるハイパワー伝送技術”,レーザ加工学会第89回講演会,セッション 24A2「レーザ加工応用・適用事例」(2018年5月24日,14:40~15:10)