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人間活動によって放出される鉄エアロゾルが多面的に気候へ影響を及ぼすことを発見

 名古屋大学は2018年4月23日,同大学大学院環境学研究科の松居 仁志 助教,東京大学大学院理学系研究科の茂木 信宏 助教,米コーネル大学のNatalie Mahowald教授らの研究グループが,化石燃料の燃焼等の人間活動によって大気中に放出される鉄の微粒子(エアロゾル)が,海洋への沈着と太陽放射の吸収を通して,多面的に気候へ影響を及ぼし得ることを,観測および地球全体の大気を対象とした数値シミュレーションにより発見したことを発表した.今後の気候変動予測の高精度化に向けて,この研究成果が,その不確実性を減らす重要な知見となることが期待されるとしている.なお,この研究成果は,英国科学雑誌Nature Communicationsに掲載された(注).またこの研究は,日本学術振興会・科学研究費助成事業,環境省・環境再生保全機構の環境研究総合推進費,国立極地研究所GREEN(グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス)北極気候変動研究事業・ArCS北極域研究推進プロジェクトの支援のもとで行われたものである.

 大気中の鉄を含む微粒子(エアロゾル)は海洋への溶存鉄(植物プランクトンの一次生産(光合成)で利用可能な水への溶解度の高い鉄)の供給源となり,主に南太平洋域などの外洋域の一次生産に貢献し,CO2の吸収を変化させ,地球規模の炭素循環に影響を及ぼすと考えられている.海洋への溶存鉄の供給源としては,砂漠等乾燥地表から風で巻き上げられた土壌に含まれる鉄や,森林火災由来の鉄(自然起源鉄)が考えられこれに比較して,化石燃料の燃焼等によりエアロゾルとして大気中に放出される鉄(人為起源鉄)は少ないと考えられてきた.茂木助教はエアロゾルの実態を調べようと,Nd:YLiF4(λ=1054nm,直線偏光)のレーザー共振器ビームにエアロゾルを含んだ空気流を照射し,粒子がビームを横断するときに放出される散乱光の強度を計測する超高感度レーザー光散乱エアロゾル測定装置を開発,計測している.

 今回研究グループは,独自開発の測定技術を用いた黒色酸化鉄(マグネタイト:Fe3O4)の大気中濃度の多地点観測と,これまで開発してきた全球エアロゾルモデル(地球全体の大気を対象とした数値モデル.エアロゾルの排出,大気中の輸送・変質,降水による除去などの過程を考慮して,エアロゾルの大気中の時空間分布を計算する)の数値シミュレーションを行った.その結果,人為起源鉄の全休排出量と大気中濃度が,従来研究の見積もりに比べてそれぞれ約5倍,約8倍になることを見出した.また,従来海洋の一次生産が鉄律速となっていると考えられている南大洋域において,溶存鉄の全沈着量が従来の見積もりより50%増大し,溶存鉄の全沈着量にたいする人為起源鉄の寄与が自然起源鉄より大きくなり得ること(従来の見積もりを用いた場合の9%から39%に増大)も分かった.

 さらに,黒色酸化鉄の大気および雪氷面における加熱効果の全球評価を行った.他の光吸収性エアロゾル(ディーゼルエンジンの廃棄ガス,石炭の燃焼,森林火災,バイオマス燃料の燃焼などで発生するブラックカーボン,ブラウンカーボン)と比較して無視できない加熱効果を持つことを明らかにした.特にアジア域においては,ブラウンカーボン以上の加熱効果を持つと推定された.

 以上の結果は,人為起源鉄が数時間~数週間程度の短時間スケールでの大気加熱効果と数か月~数千年の長時間スケールでの海洋生態系を介した大気冷却効果の両面で,地球気候に影響を持つ可能性を示している.

(注)H. Matsui, N. M. Mahowald, N. Moteki, D. S. Hamilton, S. Ohata, A. Yoshida, M. Koike, R. A. Scanza, and M. G. Flanner, "Anthropogenic combustion iron as a complex climate forcer", Nature Communications Vol. 9, Article number: 1593 (2018), doi: 10.1038/s41467-018-03997-0; Published online: 23 April 2018

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