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微生物の仕組みに学んだ温和な環境で働く人工脱窒触媒により環境浄化へ

 国立研究開発法人 理化学研究所(理研)は2018年3月29日,理研 環境資源科学研究センター生体機能触媒研究チームの中村 龍平チームリーダー,何 道平国際プログラムアソシエイトらと,上海交通大学,韓国科学研究院,東京大学の国際共同研究チームが,微生物の脱窒酵素を模倣した人工触媒を開発し,高効率で亜硝酸イオンを窒素に無害化することに成功したと発表した.原著論文は米国化学会刊行Journal of the American Chemical Societyに掲載された(注).

 窒素肥料の過度の利用や,家畜の糞尿や生活排水によって硝酸塩,亜硝酸塩など有害な窒素酸化物が地下水を通じて井戸水を汚染し,海に流れ込んで赤潮などの原因となる.環境への流出は厳しく規制され,微生物が持つ脱窒反応を利用した排水処理が行われているが,大型の装置を必要とし,微生物が生育できない高濃度の硝酸イオンや亜硝酸イオンを含む廃液などは処理できない.微生物に代わる人工触媒でも脱窒反応は可能だが,白金などの高価な貴金属使用,pH1以下の強酸性条件が必要であった.

 国際共同研究チームは安価で,温和な環境で働く人工脱窒触媒を開発しようと,まず微生物が行う脱窒反応の仕組みを調べた.土壌などに生息する微生物は,4種類の異なる酵素を用いて,硝酸イオン(NO3)から亜硝酸イオン(NO2),NO2から一酸化窒素(NO),NOから一酸化二窒素(N2O),そして最後にN2Oから窒素分子(N2)を作り出していた.鉄(Fe)や銅(Cu),モリブテン(Mo)などの元素を酵素の活性中心に用い,脱窒反応を選択的かつ温和な条件で進行させている.

 その中で,研究チームは,NO3を還元する酵素が,Moを活性中心に持つことに着目した.この酵素は,硫黄(S)と酸素(O)が配位したプテリン構造と呼ぶ有機化合物の形態をとっていた.そこで,プテリン構造と類似した活性中心を持つ触媒を,水熱合成法により合成した.得られた触媒の構造を解析すると,天然酵素の活性中心と類似の酸素を含むMoS4構造をとっていることが確認できた.

 この人工脱窒触媒を電極として用い,中性のpH環境下で亜硝酸還元反応に対する活性の評価を行い,温和なpH領域において微生物の脱窒代謝と同様に,NO2からNO,NOからN2O,N2Oの還元で分子状のN2が生成することが分かった.さらに,その反応選択性は,溶液のpHに対し鋭敏に変化し,pH5を最大とする山形の依存性を示した.段階的な脱窒化反応の中間生成物を常磁性共鳴とラマン分光で分析し,触媒反応は電子の移動とプロトンの移動が段階的に行われることを確かめた.このように両者の移動のタイミングを意図的にずらすのは触媒化学の新しい概念という.pH依存性を利用することにより,高濃度のNO2が存在する環境下では13.5%の効率で亜硝酸の脱窒化を行うことができた.

 本成果は,生体酵素が行う多段階の脱窒反応を,人工触媒で再現できることを示した.微生物処理技術と並ぶ新たな脱窒技術としての利用,廃液からアンモニアを合成する新しい技術としての展開を期待している.

(注)Daoping He, Yamei Li, Hideshi Ooka, Yoo Kyung Go, Fangming Jin , Sun Hee Kim, and Ryuhei Nakamura, "Selective electrocatalytic reduction of nitrite to dinitrogen based on decoupled proton-electron transfer", Journal of the American Chemical Society, Vol. 140, No. 6, pp 2012-2015 (2018), DOI: 10.1021/jacs.7b12774; Publication Date (Web): January 29, 2018