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カーボンナノチューブを有機色素で染めた新しい光触媒 ~光触媒の水分解反応活性化波長領域を拡大~

 岡山大学と山口大学は2018年3月22日,岡山大学大学院 環境生命科学研究科の高口 豊准教授らと,山口大学大学院 創成科学研究科の三宅 秀明助教らの共同研究グループが,カーボンナノチューブの内部空間に色素分子を封じ込めることで,光照射下において,色素増感水分解反応による水素製造が可能になることを初めて確認した,と発表した.本研究の一部は,岡山県特別電源所在県科学技術振興事業の研究委託,独立行政法人 学術振興会(JSPS)の科研費,文部科学省地域産学連携科学振興事業などの助成を受けて行われ,成果はJournal of American Chemical Society誌で公開された(注).

 CO2排出を実質ゼロにするカーボンニュートラル社会の実現に向けて,CO2フリーの水素製造法開発が望まれている.そのような背景の下,光触媒を使い,太陽光のエネルギーで水を分解する水素の製造法は,持続可能な社会の実現に欠くことのできない技術と期待されている.しかし,現在までに実用化が検討されている光触媒は,太陽光スペクトルの一部しか利用できず,活性も十分ではなく,触媒の一部に希少元素を使用するなどの問題点があった.

 研究グループはこれまで,従来型の水分解光触媒は波長が300~530nm程度の光のみに活性を示すのに対し,カーボンナノチューブ(CNT)が300~1100nmの広い波長域で活性を持つことを見出しているが,一方で,CNTが高い活性を示すのは600nm以上の波長域に限られるという課題もあった.本研究では,CNT内部空間に有機色素分子を封じ込めることで,色素増感効果により水素分解活性を示す波長域の拡大と,触媒効率向上の検討が行われた.使用されたCNTは単層CNT(SWCNT)で,CNT内部にフェロセン系色素,CNT表面にフラーレンが存在する.CNT内部の色素に光が照射されて発生する電子はフラーレンを通じて取り出され,助触媒である白金コロイドに電子が移動して水が分解され水素が生成する.波長550nmの光に対する水素生成反応の量子収率は7.5%に達し,通常の光触媒では利用困難な波長650nmの光でも量子収率1.4%が得られた.色素分子を持たないCNTでは,650nmの光に対する量子収率は0.011%に過ぎないので,内部に色素を封じることで活性が120倍に増大したことになる.

 本研究の手法によれば,色素を変更することで,CNT光触媒が活性化する波長を自在に制御可能となり,今後,太陽光エネルギー変換効率向上のキー技術となることが期待される.さらに,本手法は太陽電池やセンサーなどへの応用も期待されるという.

(注)Noritake Murakami, Hideaki Miyake, Tomoyuki Tajima, Kakeru Nishikawa, Ryutaro Hirayama, and Yutaka Takaguchi, "Enhanced Photosensitized Hydrogen Production by Encapsulation of Ferrocenyl Dyes into Single-Walled Carbon Nanotubes", Journal of American Chemical Society, 2018, 140 (11), pp 3821-3824, DOI: 10.1021/jacs.7b12845; Publication Date (Web): March 5, 2018