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X線ハーモニックセパレーター ~従来の100倍明るいX線ビームを作り出す新技術~

 国立研究開発法人 理化学研究所(理研)と公益財団法人 高輝度光科学研究センター(JASRI)は共同で2018年3月1日,理研 放射光科学総合研究センタービームライン開発チームの井上伊知郎 基礎科学特別研究員,ビームライン研究開発グループの矢橋牧名グループディレクター,JASRI光源基盤部門の後藤俊治 部門長らの共同研究チームが,新しいX線光学技術「ハーモニックセパレーター」を考案・開発し,X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLA(SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser)において従来よりも100倍明るいX線レーザービームを作り出すことに成功したと発表した.本研究は,独立行政法人 日本学術振興会 科学研究費補助金若手研究(B)「X線ポンプ・X線プローブ法によるフェムト秒X線ダメージ過程の解明」の支援を受けて実施された.本成果は,英国の放射光科学専門誌Journal of Synchrotron Radiationにオンライン掲載された(注).

 理研が建設しJASRIが運営する大型放射光施設「SPring-8」などのX線光源は,放射されるX線の波長が多岐にわたるため,分光器を通して,特定波長のX線を抽出している.しかし,2結晶分光器を通すとX線のバンド幅(X線の波長幅を中心波長で割った値)は0.01%程度になるため,X線の強度は落ちてしまう.一方で,SACLA等のXFELや次世代放射光といった最先端X線光源では,ある特定波長とその近傍の波長のX線が強く放射され,各波長のバンド幅は1%である.もし分光器を通さずに,1%というバンド幅を維持したまま特定波長のX線を抽出できるならば,より高強度のX線の利用が可能になる.

 そこで本研究チームは,全反射ミラーとX線プリズムを組み合わせたハーモニックセパレーターという光学技術を考案し,分光器で単色化せずに基本波や特定の高調波のみを取り出す光学系を開発した.この方法ではまず,X線を全反射ミラーに入射して,抽出波長よりも短波長のX線を取り除く.さらに,グラッシーカーボンでできた楔形のプリズムを通した後にスリットを使って,抽出波長よりも長波長のX線も除去し,特定波長のX線を抽出する.この光学技術を使い,SACLAから放射された光子エネルギーが10keV(波長0.124nm)のX線レーザーから,2次高調波の20keV(0.062nm)や3次高調波の30keV(0.041nm)のX線レーザーの抽出を試みた.その結果,分光器を使った従来のSACLAの高調波光と比較して,約100倍の強度の高調波X線レーザービームを作り出すことに成功した.

 XFELにおける2次高調波,3次高調波といった高次光の利用は,強度が限られているためにほとんど行われていなかった.ハーモニックセパレーターによって強度を保ったまま高次光を抽出することで,今後,X線レーザーの高次光の利用が広まると期待される.プリズムの材質やプリズムへの入射角度を変えることによって,より高次,より短波長の高調波を取り出すことも可能という.従来よりも2桁以上明るいX線の利用が可能になったことにより,X線計測の飛躍的なハイスループット化や高速化が実現すると期待している.

(注)Ichiro Inoue, Taito Osaka, Kenji Tamasaku, Haruhiko Ohashi, Hiroshi Yamazaki, Shunji Goto, and Makina Yabashi, "An X-ray harmonic separator for next-generation synchrotron X-ray sources and X-ray free-electron lasers", Journal of Synchrotron Radiation, Vol. 25, Part 2, March 2018| pp. 346-353, DOI:10.1107/S160057751800108X; online 28 February 2018