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物性・原理

絶縁体を使ったスピントロニクス素子の新たな動作原理を発見 ~トポロジカル絶縁体に続く第2の絶縁性スピントロニクス物質を用いた省エネルギー技術の展開へ~

 慶應義塾大学は2018年2月26日,同大学理工学部の安 紅雨 訪問研究員(日本学術振興会 外国人特別研究員),安藤 和也 准教授らの研究グループが,東北大学材料科学高等研究所の大野 武雄 准教授らと共同で,次世代の電子技術として期待されているスピントロニクス素子を,絶縁体により動作させる新原理を明らかにしたとのプレスリリースを行った.本研究は,独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)の科学研究費,国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)などの支援のもとに行われ,成果は米国科学誌Science Advancesに掲載された(注).

 電子の電気的性質(電荷)を活用して発展してきたエレクトロニクスは,電荷に加えて磁気的性質(スピン)を利用するスピントロニクス技術によって飛躍的な発展が期待されるようになった.スピントロニクス素子は磁化の制御によって動作する.電流を流した時の電子の運動がスピン軌道相互作用によって磁化にトルクを加える(スピン軌道トルク)ので磁化を自在に制御することが可能となり,電荷と電流だけでは不可能だった機能の実現や劇的な省エネルギー化が実現される.しかし,スピン軌道トルクの発生には磁性体に接合された金属に電流を流すので,この時のエネルギー損失の低減が課題となり,表面のみが金属性を有するトポロジカル絶縁体の利用が唯一の対策だった.

 これに対し,本研究グループは,磁性体と絶縁体である金属酸化物の界面に流れる電流によってスピン軌道トルクを生成させ,磁性体の中に磁化を発生・制御できることを示した.試料の作製は,まずシリコン(Si)基板熱酸化膜の上に,スピントロニクス素子でよく用いられる白金(Pt)膜を被着するが,これを高周波アルゴンスパッタリングにより酸化度を制御した白金酸化膜 Pt(O)とした.この上に設ける垂直磁気異方性の磁性体は,よく使われるコバルト(Co)やコバルト・鉄・ボロン(CoFeB)では界面が不安定で十分な磁気異方性が得られなかったので,テルビウム(Tb)25%を含むCoのフェリ磁性合金CoTbを選ぶこととなった.磁化反転スイッチング測定には,MgO(厚さ1.4nm)/CoTb(同4.2nm)/Pt(O)(同8nm)/基板の3層構造にPtキャップを設け,ホール効果の測定できる平面構造の素子を作製した.

 -60mTから+60mTの一定外部磁場のもとで,電流を-15mAから+15mAまで変化させて,ホール抵抗を測定すると,プラス磁場では約5mA,マイナス磁場では約-5mAでホール抵抗が小から大に,それぞれ逆向きの電流で大から小に変化する履歴特性が観測され,磁化反転スイッチングが起こっていることを確認した.電流が流れないほど酸化させた白金においても,磁性体との界面におけるスピン軌道相互作用によって巨大なスピン軌道トルクが生成されることが明らかになり,さらに,外部から電場によって白金酸化物内部の酸素を動かすことにより,スピン軌道トルクの大きさを制御することにも成功した.

 今後,トポロジカル絶縁体に続く第2の絶縁性スピントロニクス物質として,省エネルギースピントロニクス素子に関する研究が展開されることを期待している.

(注)Hongyu An, Takeo Ohno, Yusuke Kanno, Yuito Kageyama, Yasuaki Monnai, Hideyuki Maki, Ji Shi, and Kazuya Ando, "Current-induced magnetization switching using electrically-insulating spin-torque generator", Science Advances  23 Feb 2018:, Vol. 4, no. 2, eaar2250; DOI: 10.1126/sciadv.aar2250