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磁気トンネル接合素子,未踏の一桁ナノメートル領域で動作実現 ~超大容量・低消費電力・高性能不揮発性メモリの実現に道筋~

 東北大学,文部科学省,内閣府,国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)は共同で2018年2月14日,同大学電気通信研究所の大野英男教授(兼 省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンター長)らの研究グループが,超低消費電力高性能ワーキングメモリとしての実用化が期待されるSTT-MRAM(Spin-Transfer-Torque Magnetoresistive Random Access Memory;スピン移行トルク磁気抵抗ランダムアクセスメモリ)の主要構成要素である磁気トンネル接合素子(MTJ;Magnetic Tunnel Junction)の新しい方式を提案し,世界最小となる一桁nmサイズでの動作実証に成功したと発表した.本研究は,JST産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA),内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT),文部科学省「未来社会実現のためのICT基盤技術の研究開発」等の一環として実施された.本成果は,英国科学誌Nature Communicationsにオンライン掲載された(注).

 従来の半導体メモリは電荷の有無を記憶するのに対し,スピントロニクスではスピン(磁化)の向きを記憶する.この原理を利用したSTT-MRAMは,不揮発性で高速のため,写真や音楽など大容量データ保存用のストレージメモリだけでなく,プロセッサの近くで高速・高頻度に動作する揮発性ワーキングメモリも置換する,超低消費電力の高性能メモリとして期待されている.2018年内には本格的量産が始まる見通しであるが,今後大容量化・高性能化を進めていく上では,その構成要素であるMTJの微細化が不可欠で,情報の忘れにくさ(熱安定性)と書き換えやすさ(電流誘起磁化反転)の両立が課題となっていた.従来は,MgOとCoFeBを積層し,1nm程度に膜を薄くすることで界面磁気異方性により膜に垂直方向の磁化容易性を実現していたが,上記課題両立のため微細化は20nmに止まっていた.

 この課題に対し,研究グループは「形状磁気異方性」を積極活用する新しいMTJを提案し,10nm以下でも十分な熱安定性と電流誘起磁化反転を実現する素子の動作実証に成功した.形状磁気異方性とは磁石の形状に応じて磁化の向きやすい方向(容易軸)が決まる性質で,棒磁石であればその長手方向が磁化容易軸となる.MTJにおいては膜面垂直方向が磁化容易軸の場合に,高い熱安定性と低電流での磁化反転を両立させやすい.情報の記憶を担う記録層には磁気的な摩擦が小さく低電流での磁化反転が期待されるFeB(鉄ボロン)合金を用い,トンネルバリアには抵抗面積積が低くなるように設計されたMgO(酸化マグネシウム)を用いた.FeBの膜厚を15nmと厚くすることで形状磁気異方性による垂直磁化容易軸を実現し,最小で直径3.8nmのMTJ実現に成功した.

 作製した素子の熱安定性指数を評価し,多くのアプリケーションで要求される値が直径10nm以下の素子において確認された.また,電流による磁化反転を評価し,電流誘起磁化反転を8.8nmの素子で確認した.

 本技術は,極限まで微細化された将来の半導体集積回路にも適用可能であり,現行の典型的なワーキングメモリ(数Gbit)の約100倍となる100Gbit以上の大容量ワーキングメモリも期待できる,としている.

(注)K. Watanabe, B. Jinnai, S. Fukami, H. Sato, and H. Ohno, "Shape anisotropy revisited in single-digit-nanometer magnetic tunnel junctions", Nature Communications, Vol. 9, Article number: 663 (2018), doi: 10.1038/s41467-018-03003-7; Published online: 14 February 2018