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人間の歯や骨の成分のヒドロキシアパタイトの液晶化による配列制御に世界で初めて成功 ~次世代バイオマテリアルとして人工骨,人工歯根などへの応用が期待~

 東京大学は2018年2月9日,同大学大学院工学研究科 中山 真成 大学院生,熊本 明仁 主任研究員,幾原 雄一 教授,加藤 隆史 教授らの研究グループが,首都大学東京の山登 正文 准教授と共同で,人間の歯や骨の無機成分の構造に類似したヒドロキシアパタイトのロッド状ナノクリスタルを人工的に合成することに成功した,と発表した.本研究は独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)科学研究費の助成を受けて行われ,成果はNature Communications誌のオンライン速報版で公開された.(注)

 人間の歯や骨は無機物であるヒドロキシアパタイト(HAp)を主成分とし,強靭で高い機械的強度を持ち,かつ長期間安定な構造を保つことができる.この特性はHApのロット状ナノクリスタルが,微量のたんぱく質等と複合化して整然と配列することにより発現されている.研究グループは,生体が歯や骨を形成するバイオミネラリゼーションの機構を参考に,HApのナノ構造を人工的に形成する環境調和型材料合成技術の開発を行った.その結果,HApの配列を制御している天然のたんぱく質に代わり,それと類似の化学構造を有する有機高分子として,酸性高分子であるポリアクリル酸(PAA)を利用する手法を見出した.

 PAAを含むCaCl2水溶液と等量のK3PO4水溶液を混合すると,HApのナノロッド状クリスタルが分散したコロイド分散液が生成する.平均的なナノロッドの長さは,100±20nm,幅は21±5nm,アスペクト比は5である.得られたナノロッド状クリスタルは多結晶で,濃度がある一定以上になると,一般的な液晶性有機分子と同様に自主的に配列する特性を有している.ナノロッド状クリスタルを収差補正透過型電子顕微鏡で観察したところ,HAp結晶粒子表面に,HApとPAAが分子レベルで複合化した極めて薄い1nmの酸性高分子層が存在した.この層によりナノロッド状クリスタル間の静電的な反発力が誘起され,液晶の発現に不可欠なコロイド状態が形成される.生体たんぱく質の代わりに用いたPAAは,HApナノクリスタルの形状を制御するばかりでなく,ナノクリスタルの分散剤としても機能しており,本研究の手法は,無機材料に自主配列の特性を付与するには合理的な手法と言える.

 自主配列したナノクリスタルの配列方向を外部からの物理的刺激で変化させることも可能である.実験では基板上に移したナノクリスタルに剪断力や遠心力を与えて,配列の方向を変えたり,放射状に配列させることができ,擦って歯の構造を模したナノ構造膜の形成も行われた.また,3Tの磁場を与えてナノロッド状クリスタルを磁場と垂直な方向に配列させることもできた.このようなナノロッド状クリスタルの配列方向の制御については,偏光顕微鏡を用いた偏光状態の変化から確認された.

 本研究の成果は,今後,環境・生体調和性を有する次世代材料として,人工骨やインプラントなどの医療用途などに幅広い応用が期待されるという.

 (注)Masanari Nakayama, Satoshi Kajiyama, Akihito Kumamoto, Tatsuya Nishimura, Yuichi Ikuhara, Masafumi Yamato, and Takashi Kato, "Stimuli-responsive hydroxyapatite liquid crystal with macroscopically controllable ordering and magneto-optical functions", Nature Communications, Vol. 9, Article number: 568 (2018), doi: 10.1038/s41467-018-02932-7; Published online: 08 February 2018