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特定の信号で自発的に「群れ」をつくる分子ロボットの開発に成功

 関西大学と北海道大学は2018年2月1日,北海道大学大学院理学研究院の角五 彰准教授,関西大学化学生命工学部の葛谷明紀准教授らの研究グループが,ロボットに必要な3要素である駆動系(動く),知能・制御系(考える),センサー(感じる)を備え,群れのように振る舞う分子ロボットの開発に世界で初めて成功したことを発表した.この成果は,海外サイトが紹介し,Nature Communications誌に掲載された(注).

 ロボットの一種に,多くの単純なロボットが群れを再現する「群(ぐん)ロボット」がある.群ロボットは,ロボット間で相互作用しながら群れとして行動することで,単体のロボットにはできない複雑な仕事を効率よくこなすことができる.医療や災害の現場での応用が期待されているが,ミクロサイズのロボットの開発は難しく,これまで成功例はなかったという.

 研究グループは,群れを自発的に形成する分子ロボットを,「モータータンパク質」,「DNA」,「色素」を組み合わせて作成した.「モータータンパク質」は,加水分解によって生じる化学エネルギーを運動に変換するタンパク質で,物質の輸送や細胞分裂に関わっている.微小管とその上を動くキネシンとの組み合わせを使用し,優れたエネルギー変換効率と,一般的な電磁モーターの20倍の出力/重量を実現した.

 「DNA」は,一本鎖DNAを化学的に合成したもので,その分子認識能力を利用して,分子ロボットの知能・制御系に相当するDNAコンピュータの機能を果たす.DNAの配列を特別に設計することで,相手を識別しながら群れを作るかどうかを自ら判断することができるようになる.

 「色素」はセンサーとしての機能を果たす.紫外線や可視光に反応して構造が変化する性質を利用し,DNAコンピュータ機能のON/OFFを切り替えられる.色素には感光性分子(アゾベンゼン)を採用した.

 このようにして合成した分子ロボットのサイズは,直径25nm,全長は5µm程度である.

 この分子ロボットの能力を確認する実験を行った.まず緑と赤の2種類で色分け(蛍光色素)した分子ロボットを500万体用意し,キネシンとともに自由に走らせているところに,集合させる命令を書き込んだDNA鎖を加えると,命令どおりに集まり始め,最終的にはほぼすべての分子ロボットが群れを形成した.続いて解散させる命令を書き込んだDNA鎖を加えることで,その群れを完全に解消させることに成功した.また,複雑な命令を与えることで,論理演算プログラム(Yesゲート,ANDゲート,ORゲート)などの機能を実現することができた.さらに,センサーについても化学的信号や光などの物理的信号に反応する色素の選択により分子ロボットの適用範囲が広がる.例えば可視光と紫外光で群れの集合と解消を制御できた.微小管の剛性を調節することで,群れの運動を直進や回転など自在に制御することにも成功している.

 5年後に想定される応用例として,マイクロサイズの人工筋肉,自在に画像を描き出すシステム,遺伝子診断キット,マイクロリアクターなどが挙げられている.

(注)Jakia Jannat Keya, Ryuhei Suzuki, Arif Md. Rashedul Kabir, Daisuke Inoue, Hiroyuki Asanuma, Kazuki Sada, Henry Hess, Akinori Kuzuya & Akira Kakugo, "DNA-assisted swarm control in a biomolecular motor system", Nature Communications, Vol. 9, Article number: 453 (2018), doi: 10.1038/s41467-017-02778-5; Published online: January 2018