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世界最高速の共焦点蛍光顕微鏡を開発 ~血中細胞からのがん診断やバイオ燃料生産微生物の開発への応用が期待~

 東京大学,国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST),内閣府は共同で1月30日,東京大学大学院理学系研究科の三上秀治助教,合田圭介教授らが,情報通信技術を応用することで生体の観察に不可欠な共焦点蛍光顕微鏡の撮像速度を従来よりも1,000倍程度高速化する技術を開発し,毎秒16,000フレームの速度で生体試料を観察することに成功したと発表した.本研究は,内閣府総合科学技術・イノベーション会議の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のうち,合田圭介プログラム・マネージャーの研究開発プログラム「セレンディピティの計画的創出による新価値創造」の一環として実施された.本成果は,米国光学会(Optical Society of America)のジャーナルOpticaにオンライン掲載された(注).

 共焦点蛍光顕微鏡は,前処理などにより蛍光を発するよう準備された試料にレーザー光を照射し,試料から発する蛍光を検出することによって試料の画像を取得する顕微鏡である.複雑な生体試料の狙った部分だけを観察したり,1µm以下の微細な構造を観察できるので,通常の顕微鏡よりも生体試料の観察に適している.しかし,従来の共焦点蛍光顕微鏡は,撮像速度が非常に遅く,多数の画像を短時間で取得したり,高速に変化する生体試料の様子を捉えたりすることは困難だった.

 開発した共焦点蛍光顕微鏡では,レーザー光が対物レンズを通して試料上でレーザービーム列を形成し,これを3D対応スキャナによって光走査することで試料から出てくる蛍光を光検出器で捉え,コンピュータによる信号処理で画像を生成する.しかし,従来の共焦点蛍光顕微鏡の画像取得速度は毎秒数フレーム~数10フレーム程度で,高速変化を捉えることが難しかった.そこで,研究グループは,情報通信においてデータ通信量を増やすのに使われている周波数分割多重や直交振幅変調の技術を応用して,生体試料の別々の場所から出てくる蛍光信号をまとめて捉えることで,画像取得速度を高め,撮像時間を大幅に短縮した.これにより,蛍光寿命(数ns)で制限される毎秒16,000フレームという極めて高速度で生体試料の観察像を取得することに成功した.従来よりも1,000倍程度高速化である.

 本技術を応用して,水中を動きまわるユーグレナの3次元的な動きを,毎秒104コマという高速度(一般的なテレビ映像の毎秒60コマを上回る速度)で捉えることに成功した.さらに,細胞集団を整列させて流体中を高速(2m/s)に流す技術と組み合わせ,約5,000個という膨大な量の細胞の個々の画像を短時間で取得・解析し,別々の条件で準備された細胞試料(マウスの白血球)を,約99%の高精度で識別できた.

 本成果は今後,血液中の多数の細胞をひとつひとつ撮像してがん細胞の有無を調べるがん診断や,ユーグレナなどの微小藻類を大量に培養した細胞集団の中からバイオ燃料に適した種を探索するなど,さまざまな分野への応用が期待される.また,従来は観察が難しかった生体の3次元構造の高速な変化を捉えることで,基礎科学の新たな発見につながることも期待される,としている.

(注)Hideharu Mikami, Jeffrey Harmon, Hirofumi Kobayashi, Syed Hamad, Yisen Wang, Osamu Iwata, Kengo Suzuki, Takuro Ito, Yuri Aisaka, Natsumaro Kutsuna, Kazumichi Nagasawa, Hiroshi Watarai, Yasuyuki Ozeki, and Keisuke Goda," Ultrafast confocal fluorescence microscopy beyond the fluorescence lifetime limit", Optica, Vol. 5, Issue 2, pp.117-126 (2018), published 29 January 2018; doi: 10.1364/OPTICA.5.000117