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グラフェンの従兄弟(スタネン)の創製に世界で初めて成功! ~室温下でのスピントロニクス,トポロジカル超伝導体の実現に向けて~

 名古屋大学は2018年1月5日,同大学大学院工学研究科の柚原 淳司 准教授らの研究グループが,あいちシンクロトロン光センターの仲武 昌史 博士,エクス-マルセイユ大学(仏)のGuy Le Lay教授,バスク大学(西)のLede Xian博士,マックスプランク研究所(独)のAngel Rubio教授との日仏西独の国際共同研究で,ポストグラフェン物質の一つでグラフェンの炭素(C)を錫(Sn)で置き換えたスタネンについて,原子スケールでの界面化学反応性や物理的な界面歪を制御することで広域にわたり結晶性の高い2次元ハニカムシート構造の創製に世界で初めて成功したと発表した.この研究成果は,独立行政法人 学術振興会の科研費等の支援のもとに得られ,英国物理学会刊行の科学誌2D Materials電子版に掲載された(注)

 炭素の2次元結晶であるグラフェンは,2004年に単層グラフェンの分離に成功して以来,電気的,熱的,機械的な優れた特徴から注目を集めているが,半金属のためトランジスタは作りにくい.Cと同族のシリコン(Si),ゲルマニウム(Ge),Snは,グラフェンと同じハニカム結晶構造をとることができ,構成元素の質量が大きいほど,スピン軌道相互作用が大きく半導体的性質を得やすいと理論的に予測された.このため,CをSi,Ge,Snに置き換えたシリセン,ゲルマネン,スタネンがポストグラフェン物質として,研究されるようになってきている.しかし,グラフェンのように原子スケールでパックリング(凹凸)していないハニカム格子は作製されていなかった.

 本研究は,フランスで開催された2015年表面科学国際シンポジウムにおいて,シリセン及びゲルマネンを創製したLe Lay教授が,柚原 准教授にスタネン創製のための国際共同研究の打診をしたことから始まった.スタネンの作製と構造解析の実験は,名古屋大学とあいちシンクロトロン光センターで行われ,計算機シミュレーションによる原子配置解析は,Xian博士とRubio教授により行われた.2年半の努力の末,世界で初の原子スケールでパックリングのない,2次元スタネンの創製に成功した.界面化学反応性及び物理的な界面歪を制御することが必要で,10-8Paの超高真空中で銀基板(Ag(111)面)表面をアルゴンイオンスパッタで清浄化・アニールし,Snを毎分0.05原子層の速度で蒸着した.下地基板にAg2Sn表面合金を設けた上に単層スタネンを形成し,厚さ約250pmの単原子層で数百nmの広域にわたる結晶性の高いスタネン膜が実現している.走査トンネル顕微鏡(STM)観察によりSn原子の高さ分布は測定限界の5pm以下であること,低エネルギー電子線回折から理論解析でハニカム構造原子配置が再現できることを確認している.

 構成元素の質量数が大きいほどスピン軌道相互作用が強く,スズで構成されるスタネンは,比較的大きなスピン軌道相互作用を持つため冷やさない室温でも量子スピンホール効果(電流により電流と垂直な方向に電子スピンが偏りスピンが偏極した端面でスピンホール流の伝導度が量子化されること)やトポロジカルな絶縁体(物質の内部は絶縁体で表面や界面に金属状態が発生する物質)が実現することが期待されている.

 今後の展開としては,創製したスタネンを半導体基板上に転写して,室温下でのスピントロニクスやトポロジカル超伝導体への応用展開に向けた研究を行うとしている.

(注)Junji Yuhara, Yuya Fujii, Kazuki Nishino, Naoki Isobe, Masashi Nakatake, Lede Xian, Angel Rubio, and Guy Le Lay, "Large Area Planar Stanene Epitaxially Grown on Ag (111)",2D Materials, Vol. 5, No. 2, Published 4 January 2018