ナノテク情報

ナノテク・材料

銅スズ硫化物系ナノ粒子から環境に優しいナノ構造熱電材料を創製

 北陸先端科学技術大学院大学は2018年1月4日,同大学物質化学領域の前之園 信也教授らが,株式会社日本触媒,国立研究開発法人 産業技術総合研究所と共同で,銅スズ硫化物系ナノ粒子を化学合成し,それらをビルディングブロック(構成要素)として環境に優しい銅スズ硫化物系ナノ構造熱電材料を創製したと発表した.本成果は,国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務の結果得られたもので,詳細は米国物理学協会(AIP)刊行のApplied Physics Lettersに掲載された(注).

 地球温暖化の抑制に資する消費エネルギーの有効利用に向け,発電,製鉄,ゴミ焼却等の排熱を利用した熱電発電への関心が高まっている.これに用いる熱電材料は,低い排熱温度でも働くよう,より低い温度で高い熱電性能を持つことが求められる.熱電性能は無次元の性能指数ZTなどで評価され,単位温度差あたりの熱起電力であるゼーベック係数S,導電率σ,熱伝導率κを用い,ZT=S2σT/κの関係にある.

 ところが,熱電性能が優れ,実用化されている熱電材料には,テルル化ビスマス(Bi2Te3)をはじめ,テルル(Te),セレン(Se),鉛(Pb)といった毒性が高い,あるいは資源的に希少な元素が用いられている.そこで,TeやSeを同族の硫黄(S)で置き換えられれば,比較的安価・安全で,資源的にも豊富な,サステイナブルな熱電材料が得られるとして金属硫化物材料が注目されるようになった.さらに,ZTを高めるため,ナノ粒子を焼結して粒界におけるフォノン散乱を増加させて,κを下げる"ナノ欠陥構造制御"が試みられるようになった.しかし,従来はバルク結晶をボールミリング法等によって粉砕してナノ粉末を作っていたため,原子・ナノスケールの精密な構造制御は困難であった.

 一方,金属硫化物は,硫化カドミウム(CdS)がCdイオンの溶液に硫化物イオンを加えると得られるように,化学合成ができる.化学合成過程で構成金属元素を置換することもできる.本研究グループは,太陽電池材料として知られる銅スズ硫化物(Cu2SnS3:CTS)に着目し,Snの一部を亜鉛(Zn)で置換したCu2Sn1-xZnxS3(x=0-0.2)ナノ粒子(粒径約40nm)を化学合成した.このナノ粒子をパルス通電加圧焼結法によって結晶成長を抑制しながら焼結(温度450℃,圧力30MPa,焼結時間5分)することで,ナノメートルサイズの結晶粒界を有したペレット状(直径10mm,厚さ2~3mm)ナノ構造熱電材料を作製した.焼結前は結晶粒平均サイズ20nmのウルツ鉱型結晶であったものが,焼結後にはほとんどが閃亜鉛鉱型に変わったが,結晶粒平均サイズは変わらなかった.組成がX=0.05,0.15の時にZTは最大となり,ZT=0.37(@670K)が得られた.この値は,構造や組成制御していないCu2SnS3におけるZTの10倍であった.Zn添加による正孔キャリア濃度増加と閃亜鉛鉱型への転換の結果σ大,フォノンのナノ粒界散乱によりκ小,の相乗効果のためという.

 今後はCu2SnS3系だけでなく,テトラヘドライト(Cu12Sb4S13)系など様々な銅硫化物系ナノ粒子を化学合成,複数種類配合して焼結することで,更なるZTの向上を図り,最終的には、エネルギーハーベスティングに資するサステイナブル熱電材料の実用化を目指すとしている.

(注)Wei Zhou, Chiko Shijimaya, Mari Takahashi, Masanobu Miyata, Derrick Mott, Mikio Koyano, Michihiro Ohta, Takeo Akatsuka, Hironobu Ono, and Shinya Maenosono, "Sustainable thermoelectric materials fabricated by using Cu2Sn1-xZnxS3 nanoparticles as building blocks". Applied Physics Letters, Vol. 111, p. 263105 (2017); doi. 10.1063/1.5009594; Published Online: 28 December 2017