ナノテク情報

測定・評価

電子の動きを止めて観る,極短パルスX線の実現にあらたな道筋 ~自由電子レーザの光の位相を制御し未踏の時間領域に迫る~

 国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(QST)は11月14日,量子ビーム科学研究部門の羽島良一上席研究員と永井良治上席研究員が,自由電子レーザ発生装置に外部から微弱なレーザを連続的に注入することでレーザ光パルスの位相が制御できることを見出し,アト秒(10-18秒)のX線極短パルスを高繰り返し(>10MHz)発生させることを可能としたと発表した.本研究の一部は,公益財団法人光科学技術研究振興財団(JASRI)の助成を受け,成果は,米国物理学会刊行Physical Review Letters に掲載された(注).

 近赤外線領域(波長=約1µm)で光の振動電場数サイクルの極短レーザパルスをガス中に集光すると高次高調波発生(HHG:High-Harmonic Generation)技術により,紫外線の波長領域に変換できる.紫外光レーザパルスの時間幅は,光の振動電場で数サイクルの数十アト秒になる.さらなる超短パルス化には,光の振動電場の位相を安定化することが重要になる.自由電子レーザ(FEL:Free Electron Laser)は,加速器で得られる数十MeVの高エネルギー電子ビームからレーザを作り出す装置で,電子エネルギーを変えるなどでレーザの波長を自在に変えることができる.X線自由電子レーザ(XFEL)は,エネルギーが数GeVの電子ビームを使ってX線を発生する装置で,X線パルス幅はフェムト秒(10-15秒)の時間領域である.しかし,FELでは,電子ビームに含まれる「電子のゆらぎ」が「種光」となってレーザ発振を得るため,これまで,光の位相を制御してアト秒パルスを発生することは難しいと考えられていた.

 本研究チームは,あらかじめ光パルスの振幅と位相を制御した微弱なレーザパルスを種光としてFELの光共振器に連続的に注入し,発生したFEL光のパルス先頭部の位相をピン止めすることで,パルス全体の位相が制御できることを見出した.FELパルス生成のシミュレーション計算で,電子ビームのエネルギーを50MeV,FEL波長を6µmに選ぶと,位相が安定化することを確認した.今回の手法を取り入れることで,位相を制御したFELパルスの発生が可能になる.さらに,HHGの短波長化に有利な中赤外線領域(4µm以上の波長)を選んでFELを動作することによって,これまでよりはるかにエネルギーの高い1keV以上のアト秒X線を1秒間に1千万回(10MHz)以上の繰り返しで生成することが可能となった.本手法は,従来のXFELよりも2桁小さなエネルギーの電子ビームを用い,従来よりはるかに短いアト秒X線パルスを発生する手法であり,シンクロトロン放射光,XFELと共に進化してきた加速器光源の未来に新たな可能性を開く.

 一般に化学反応や物質の変化が生じる際のカギとなる電子の「励起」や「緩和」の現象はそれぞれフェムト秒(10-15秒),ピコ秒(10-12秒)程度の間に起きる.今回の成果が生み出すアト秒はこれよりはるかに短い時間であり,電子や原子をはじめあらゆるものが「止まって」見える.これをX線という非常に透過力の強い光で観察できることは,物質変化のプロセスばかりでなく,新たな現象を見出す可能性も秘めている.本研究成果は,アト秒X線光源の実現に新たな道筋をつけるものであるとともに,未踏の時間領域を開拓するための有力な手法として期待される,としている.

(注)Ryoichi Hajima and Ryoji Nagai,"Generating Carrier-Envelope-Phase Stabilized Few-Cycle Pulses from a Free-Electron Laser Oscillator", Physical Review Letters, Vol. 119, p. 204802 - Published 15 November 2017; DOI: 10.1103/PhysRevLett.119.20