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ありふれた物質でテラヘルツ波を可視光に変換 ~ナノ空間に閉じ込められた酸素イオンを振動させて発光~

 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST),東京工業大学,弘前大学,および福井大学は2017年11月13日,東京工業大学の細野 秀雄 教授らのグループが,石灰(CaO)とアルミナ(Al2O3)から構成される化合物12CaO・7Al2O3(C12A7)がテラヘルツ波(THz波)を吸収し,容易に視認できる可視光に変換できることを見出したと発表した.本成果はJST戦略的創造研究推進事業(ACCEL)によるもので,文部科学省元素戦略プロジェクトの支援を受け,原著論文は米国化学会刊行のACS Nanoで公開された(注).

 テラヘルツ波は周波数0.1~10THzの電磁波で,1THzは1012Hz,波長にして300µmで,赤外線(波長数µm)とマイクロ波(波長数cm)の中間にある.電磁波は,用途ごとに使用周波数が定められ,需要が増すに従い,より高い周波数を使うようになる.電話の基地局間通信や車の自動運転用には140GHzが使われるなど,無線通信周波数はTHzに向かおうとしている.さらにTHz波は,金属以外の物質を良く透過する一方,禁止薬物などはTHz波を吸収するから,空港等の保安検査に応用される.しかし,THz波は分子の振動や回転のような非常に微弱なエネルギーの運動にしか作用しないため,検出が困難という問題があった.

 今回,アルミナセメントの成分の1つであるC12A7に様々な電子機能を与えて新物質エレクトライドを創製してきた本研究グループは,C12A7に福井大学で開発したTHz波発振源ジャイロトロンの発する0.1~0.3THzのTHz波(出力約50W)を照射したところ,通常の明るさの下で,十分な視認ができるほどの可視光の発光が生じることを見出した.この発光はTHz波照射を停めると同時に停まる.発光のピーク波長は600nm(周波数500THz)で,発光スペクトルは500nmから800nmに広がっていた.THz波は可視光に変換され,周波数は数千倍に上方変換(アップコンバージョン)されたことになる.

 C12A7は,酸素(O),アルミニウム(Al),カルシウム(Ca)というありふれた元素のみから構成され,内径0.4nm程度の籠(かご)状の骨格が面を共有してつながった結晶構造をしている.この籠には1/6の割合で酸素イオン(O2-)が籠の中に閉じ込められている.観測された発光のスペクトルの解析から,発光はこの酸素イオンからであることが分かった.さらに,第一原理計算の結果から,THz波によりC12A7の籠の中のO2-の振動が誘起され,O2-が籠の内壁に衝突を繰り返して衝突のエネルギーを蓄積して酸素の励起状態が生成され,励起状態から元に戻る際に可視光を発することが分かった.

 本研究は,安価な化合物C12A7によりTHz波を可視光に変換できることを示したもので,THz波検出のための装置の簡略化が期待できる.C12A7のナノケージに閉じ込めるイオンはハロゲンや金のアニオンに替えられるので,O2-とは異なった色の発光が得られよう.C12A7には新しい機能が加わった.今後も,元素の組み合わせとナノ構造に着目することで未知の新しい機能を見出すことが期待されるとしている.

(注)Yoshitake Toda, Shintaro Ishiyama, Eduard Khutoryan, Toshitaka Idehara, Satoru Matsuishi, Peter V Sushko, and Hideo Hosono, "Rattling of Oxygen Ions in a Sub-Nanometer Sized Cage Converts Terahertz Radiation to Visible Light". ACS Nano, Just Accepted Manuscript, DOI: 10.1021/acsnano.7b06277; Publication Date (Web): November 3, 2017