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地球温室効果ガスである二酸化炭素を分離回収できる有用なハイブリッド分離膜材料を開発 ~分離性能におよぼす実ガスに含まれる不純物の影響を解明~

 東京農工大学は2017年11月2日,同大学大学院工学府応用化学専攻 兼橋 真二 特任助教とオーストラリア メルボルン大学化学工学科のSandra Kentish教授らが,世界的な環境問題である地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を選択的に分離回収できるハイブリッド分離膜材料を開発したと発表した.また,同大学は同日,研究者のコメントを含む英文ニュースリリースも行った.本研究は独立行政法人 学術振興会の科学研究費補助金,オーストラリアのScientific and Industry Endowment Fund(SIEF)の助成を受けた国際共同研究で,成果はElsevier刊行の科学誌Journal of Membrane Scienceにオンライン掲載された(注).

 世界的な環境問題である地球温暖化に対し,温室効果ガスとされる二酸化炭素(CO2)の排出を減らし,回収・貯留して,大気中のCO2濃度を430-550ppmに保つことが求められている.大規模固定発生源である火力発電所や製鉄所から発生するCO2を分離回収し,地中あるいは海洋に輸送して貯留するが,分離には相変化や化学反応を伴わずに対象物を膜により分離する膜分離技術が,経済性の高いクリーンな分離技術として期待されている.分離膜には,ガスの透過性,選択性,耐久性が求められるが,実際の分離環境を想定した硫化水素(H2S),一酸化窒素(NO)などの不純物を含むガスの分離試験はほとんど行われていなかった.

 これに対し,国際共同研究グループは,多孔性ナノ粒子と有機高分子からなるハイブリッド(複合)材料に着目し,一連のハイブリッド分離膜における不純物ガスの影響を系統的に調べることにより,CO2分離材料の開発に成功した.一連のハイブリッド分離膜は,市販の芳香族ポリイミド(Matrimid® 5218)とナノ粒子で作製され,ナノ粒子には多孔質カーボン,多孔性有機高分子,有機金属構造体(MOF, metal organic framework)が用いられた.発電所などの排気ガスには,H2S,NO,二酸化硫黄(SO2)の含まれることが多いので,これらのガスを0.75kPaの分圧で混ぜた窒素ガスに20日間曝して耐久性を調べた.この結果,MOFとしてzeolitic imidazolate framework(ZIF-8)を含む膜は,何れの不純物によっても急速に劣化する.また,MOFとしてcopper benzene-1,3,5-tricarboxylate(Cu-BTC)を含む膜は,NO, SO2の影響は受けにくいが,H2Sは非可逆的に吸着する.これに対し,多孔質有機高分子または多孔質カーボンを含む膜は,これらの不純物の影響を受けることが少ない.特に,有機ポリマーを含む膜は,1000ppmの不純物を含むガスに80日間曝してもガス透過性は原材料のポリイミド以上を保ち,優れたH2S選択性も示す.この結果から,多孔性有機高分子系ナノ粒子とのハイブリッド分離膜は,天然ガスの腐食抑制,バイオガスの精製,排気ガスからのCO2を分離回収に有効と結論づけた.

 今後,実際の製品形態である分離膜の薄膜化や分離膜モジュールの作製および現地での実証試験へと展開していくとしている.

(注)Shinji Kanehashi, Alita Aguiar, Hiep Lu, G. Chen, and Sandra Kentish, "Effects of industrial gas impurities on the performance of mixed matrix membranes", Journal of Membrane Science, Available online 31 October 2017; doi: 10.1016/j.memsci.2017.10.056