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シリセン上へ分子を線状に集積 ~分子の性質を損なわずに固定することに成功~

 北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は2017年10月12日,同大学先端科学技術研究科応用物理学領域の高村由紀子准教授,アントワーヌ・フロランス助教らが,ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン,ユーリッヒ総合研究機構,東京大学物性研究所と共同でシリセン上にヘモグロビン様の有機分子がその性質を保持した状態で固定されることを発見したことを発表した.本成果は,10月11日(水)にワイリー社の発行する論文誌Advanced Materialsにオンライン掲載された(注).なお,本研究は,科学研究費補助金,東京大学物性研共同利用などの支援を受けて行われたものである.

 シリセンはケイ素(Si)でできた,厚さが原子一層分の二次元結晶である.JAISTの研究チームは2012年にSiウェハー上に成長した二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)薄膜表面にシリセンが自発的に形成されることを発見し,ZrB2とのエピタキシャル関係とシリセンの容易に座屈する性質により,これまで予想されたことのない構造と電子状態を有することを見つけた(本サイトNanotechJapan,ニュース,ナノテク情報,2012/06/12,http://nanonet.mext.go.jp/topics_ntj/?mode=article&article_no=1546).

 ところで,二次元材料の表面への原子あるいは分子などの吸着性は,触媒や分子センシングから分子エレクトロニクスやスピントロニクスに至る広い応用分野に係わり注目されている.二次元材料で注目されているグラフェンの場合は炭素(C)の蜂の巣格子である表面が不活性なために分子との相互作用は弱いファンデルワールス力であり,室温で一つ一つの分子を特定の場所に固定することは難しい.今回,ZrB2基板上のシリセン上に鉄フタロシアニン(FePc)分子を蒸着したところ,シリセンとZrB2との格子不整合により生じるシリセンの縞状ドメインの境界に沿って未結合手が存在し,そこに線状に分子が固定されることが走査トンネル顕微鏡(STM)観察から明らかとなった.

 Siは通常ダイヤモンド構造をとる半導体結晶であり,その表面には未結合手が沢山存在するので,化学反応により分子を壊してしまうことが知られている.今回のシリセンとFePc分子の場合は,分子の中心にある鉄原子がシリセンを構成するSi原子と強固に化学結合しているが,フロンティア軌道(最高被占軌道HOMOと最低空軌道LUMOの総称)を含む分子の電子構造は大きく変化しておらず,その性質が保たれていることがSTMによる実験と第一原理計算により明らかとなった.

 今後は,シリセンの電子状態が分子の蒸着により変わる様態の測定などを通して,シリセンの性質が分子吸着によりどう制御できるのかを調べていきたいとしている.シリセン上に磁性を持つ分子を固定できると,シリセンの分子スピントロ二クス分野への応用が期待される.

(注)Ben Warner, Tobias G. Gill, Vasile Caciuc, Nicolae Atodiresei, Antoine Fleurence, Yasuo Yoshida, Yukio Hasegawa, Stefan Blügel, Yukiko Yamada-Takamura, and Cyrus F. Hirjibehedin, "Guided molecular assembly on a locally reactive two-dimensional material", Advanced Materials, Early View, First published: 11 October 2017, DOI: 10.1002/adma.201703929