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シリセンをグラフェンのようにフラットにする構成単位を構築 ~グラフェンを超える2次元材料の実現に期待~

 東北大学は2017年9月8日,同大学大学院農学研究科 高橋 まさえ 准教授が,これまでとは全く異なる着想によって,ジグザグ構造をとるケイ素2次元シート「シリセン」を,グラフェンと同じようにフラットにできる構成単位の構築・分子設計に成功したことを発表した.本成果は,英国のオンライン科学雑誌Scientific Reportsに掲載された(注).

 単層炭素原子の蜂の巣状網目で構成される2次元シートのグラフェンは,sp混成軌道で結合し,高い導電率など優れた特性を持つため,電子デバイスを含めて様々な応用研究が進められている.グラフェンの電子物性はフラットな2次元シートに垂直な電子軌道にあるπ電子の自由な運動に由来する.炭素(C)と同族のケイ素(Si)は同様の化学的特性を持つから,単層の2次元シート「シリセン」が作られ,その加工には長年にわたって磨かれてきたシリコンテクノロジーの適用が期待される.しかしながら,これまでのところ,シリセンはジグザグに折れ曲がったシートとなり,単層フラットな2次元シートは実現されていない.これは,グラフェンの構成単位であるCの六員環分子であるベンゼンがフラットであるのに対し,そのSi版のヘキサシラベンゼンはシリセンのジグザグ構造を切り出した椅子型の形をしていることに起因している.

 そこで,高橋 准教授はベンゼンとヘキサシラベンゼンの相違を調べ,新たな着想によりフラットシリセンの構成単位の構築に成功した.ベンゼン及び,その骨格である六員環クラスターC6は,ともにフラットな分子であり,C6は分子面に垂直なπ軌道と,面内のσ軌道により二重芳香族性を持つ.これに対し,高橋准教授は2005年に,ヘキサシラベンゼンの骨格である六員環Siクラスターに電荷を注入するとSi62-となってフラットになることを示していた. 

 今回はさらに,π電子の動きを妨げないよう,環の末端に,sp混成軌道を有し,電子供与性があってできるだけ軽い金属からなる置換基としてBeHをつけることにした.単環のベンゼン,2環のナフタレン,3環のアントラセン,4環のピレン,7環のコロネンの5種の分子のCをSiで置き換えたケイ素等価体に置換基BeHをつけ,密度関数理論による計算で構造を最適化した.これによって得られたシリセンの構成単位である5種の分子は全てフラットな構造となった.電荷は,置換基がついている環の末端が負で環の中心は中性,環に結合した原子は正となった.最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)はすべてπ軌道となり,π電子の動きが妨げられないことも確かめられた.

 本研究により,ジグザグ構造をとるシリセンをグラフェンと同じようにフラットにできる可能性が示された.BeHが,シリセンの構成単位の構築において,グラフェンの構成単位における水素と同じ働きをすることが明らかとなった.今後,フラットなシリセンの実現に向けた研究が加速され,シリコンテクノロジーを活用した2次元材料の研究開発が進むことを期待する,としている.

(注)Masae Takahashi, "Flat building blocks for flat silicene", Scientific Reports, Vol. 7, Article number: 10855 (2017), doi: 10.1038/s41598-017-11360-4; Published online: 07 September 2017