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導電性高分子の配向膜を簡単に作製する世界初の手法を開発! ~曲がるタブレットや体に貼る端末への応用も~

 広島大学と公益財団法人 高輝度光科学研究センター(JASRI)は2017年7月10日,広島大学 自然科学研究支援開発センターの齋藤 健一教授らの研究グループが,導電性高分子の極薄配向膜を極めて簡単に作製する手法を開発したと発表した.本研究の成果はScientific Reports誌に公開された(注).

 導電性高分子は,有機ELディスプレイやスマートデバイスなどの基幹材料として期待されており,その性能向上には導電性高分子の分子配向制御が極めて重要と考えられている.その理由は,導電性高分子には電流の流れ易い方向に異方性があるので,分子配向が,センサーとしての応答速度,画面の明るさ,省電力化などに大きく寄与するからである.

 本研究で開発された手法によると,室温,大気中において,基板(例えばガラス板)を綿の布で,軽い圧力(1~2kgf/cm2)を加えながら一定方向にブラッシングした後,導電性高分子の溶液をスピンコートして乾燥するだけで,一軸配向した導電性高分子の配向膜が極めて簡単に得られる.導電性高分子にP3HT(poly[3-hexyl thiophene-2,5-diyl])を用い,2×2cm2のITOコートガラス基板をブラッシング後,5mg/mlのクロロベンゼン溶液を30µL滴下,1,000rpmで3s,2,000rpmで30s,スピンコートして厚みが約30nmの配向膜が得られた.ブラッシング方向の偏光の吸光度は垂直方向の約3倍になった.この膜を60℃の温水に浸して剥離し,別の基板に移すことも可能である.

 P3HT膜の分子配列を大型放射光施設(SPring-8のBL19B2)のすれすれ入射X線回折法(GIXD)と,偏光分光吸収スペクトルで調べたところ,ブラッシングした面ではP3HT分子の(100)面が基板に垂直になるエッジオン状態が減少し,(100)面が基板と平行になるフェイスオン状態の増加が見られた.走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)による観察,X線光電子分光法(XPS)測定,および理論解析などの結果も併せ,高分子配向のメカニズムは,基板に付着したセルロースのグルコース部分に,導電性高分子のチオフェン部分が重なるテンプレート効果であることが判明した.従来の摩擦転写法(120から200℃の高温に加熱した基板にテフロン棒を擦りつけ,その上に溶液を滴下して配向膜を作成する方法)に比べ,本手法で得られる薄膜の配向度は17倍高い.研究グループは開発した方法を「ソフト摩擦転写法」と名付けている.

 本手法は,MEH-PPV(poly[2-methoxy-5-(2-ethylhexyloxy)-1,4-phenylene vinylene])はじめ他の4つの導電性高分子の配向に適用できることを確かめた.さらに,MEH-PPV配向膜にAlカソードを被着して配向に平行と垂直とで強度の異なる波長600nm帯EL発光を得て,デバイス応用も確認できた.

 開発された手法は常温の大気中で行うことができるため,高温で不安定な材料でも扱え,真空装置やグローブボックスなどの特殊な環境装置も不要であり,将来は工業的なロール・ツー・ロール法による配向膜製造への発展も期待されるという.研究グループでは,更に多くの導電性高分子や基板を用いて研究を発展させたいとしている.

(注)Masayoshi Imanishi, Daisuke Kajiya, Tomoyuki Koganezawa, and Ken-ichi Saitow, "Uniaxial orientation of P3HT film prepared by soft friction transfer method", Scientific Reports, Vol.7, Article number: 5141 (2017), doi: 10.1038/s41598-017-05396-9; Published online: 11 July 2017