ナノテク情報

加工技術

マイクロ/ナノ・プリンティングによる生体検査マイクロ流体デバイスの作製 ~極小サイズの技術が持つ臨床検査応用への大きな期待~

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)は2017年6月30日,同大学マイクロ・バイオ・ナノ流体ユニット エイミー・シェン教授らの研究グループが,ナノスケールに及ぶ微小な領域にバイオレセプターを配置したマイクロ流路デバイスを作製するマイクロ/ナノ・プリンティング(転写)技術を開発したと発表した."Miniature Technology, Big Hope for Disease Detection"の表題で英文リリースも行われている.本成果は,英国王立化学会刊行の論文誌Analystで公開された(注).

 医療の現場では,患者から採取された血液などの生体サンプルに含まれ,疾患の指標となるバイオマーカーを簡便かつ迅速に,低コストで測定する臨床検査キットが求められている.近年では,マイクロ流体型の生化学反応系に基づく検査キットが利用され,キットのセンサー表面にあらかじめ配置されたバイオレセプターによるバイオマーカーの捕捉,バイオマーカーに結合する蛍光色素のシグナルの強弱によりバイオマーカーの濃度を求めている.しかしながら,バイオレセプターは,その活性を保持しながらセンサー表面に固定化することが難しかった.これに対し,ゴム素材のスタンプを用い,バイオレセプター分子を基板表面に転写・配置するマイクロコンタクト・プリンティング(Microcontact printing:µCP)と呼ばれる技術が20年程前に提案されている.しかし,この方法をナノスケールのパターニングに適用すると,スタンプ形状の変形やバイオレセプターのダメージ発生により,検査結果が影響を受けるという問題が発生する.

 本研究で研究グループは,バイオレセプターを直接プリントするのではなく,バイオレセプターを捕捉するインクをプリントし,形成されたパターンにバイオレセプターを捕捉させることでこの問題を解決した.スタンプにはポリジメチルシロキサンと呼ばれる柔軟性を有するゴム素材,インクには,分子内にケイ素と酸素を含むAPTES(3-aminopropyl triethoxysilane)の水溶液を用いた.このスタンプ表面にインクを塗布して,しばらくガラス基板に押しつけた後,スタンプを引き離してガラス表面に数百µm~200nmのAPTESのパターンを形成する.インクが水溶液であるので,スタンプが膨潤することも無く,微細なパターンの作成が可能である.パターンが形成されたガラス表面にマイクロ流路構造を組み合わせ,各流路のパターンにDNAや抗体などのバイオレセプターを結合せるとセンサー素子が完成する.このセンサーには1つないし,2つ以上の流路から様々な検体溶液を個別にガラス表面に導入することが可能である.

 実証試験としては,マーカーとなるヒトインターロイキン(IL6,炎症・免疫疾患の発症メカニズムに関与),C反応性ヒト蛋白(hCRP,組織の破壊が起きているときに血中に現れる)の検出を確認し,検出限界は5nMで臨床検査に十分であった.また,マイクロ流路構造を組み合わせた後,3か月後に抗体などのバイオレセプターを結合させても機能に変わりはなく,使用準備状態で作り置きできることも確かめられた.

 シェン教授は,「最終目標は,ポイントオブケア診断法を可能にするデバイスです」と語り,患者自身が自宅で診断できるようになることを目指しているという.

(注)Shivani Sathish,  Sébastien G. Ricoult, Kazumi Toda-Peters  and  Amy Q. Shen, "Microcontact printing with aminosilanes: creating biomolecule micro- and nanoarrays for multiplexed microfluidic bioassays", Analyst, 2017,142, 1772-1781, DOI: 10.1039/C7AN00273D; first published on 05 Apr 2017