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電気刺激で電子伝導性と白色発光を同時に示す物質を発見 ~リング状炭化水素とヨウ素を混ぜ,電気をかけるだけ~

 名古屋大学と国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)は2017年6月7日,名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所 拠点長の名古屋大学 大学院理学研究科伊丹 健一郎教授らの研究グループが,ベンゼン環を環状につなげた化合物であるカーボンナノリング分子の空間内にヨウ素を閉じ込めた複合体を合成し,この複合体に電気刺激を加えることで,従来の有機材料では難しかった電子伝導性および白色発光という,2つの機能を同時に発現させることに成功したと発表した.本成果は,JST戦略的創造研究推進事業 ERATOによって得られ,ドイツ化学誌Angewandte Chemie International Editionで公開された(注).

 電圧や光などの刺激に応答して性質が変化する刺激応答性機能物質は,ドラッグデリバリー(薬物送達)システム(DDS)など,多岐に渡る応用が期待される.これまでは,刺激に応答する物質と機能性をもつ物質を,分子レベルで並べることにより実現されていたが,その「並び方」を制御する普遍的な方法は確立されていなかったため,刺激応答性と機能性を同時に発現させる材料の合成は容易でなかった.

 これに対し,本研究グループは,刺激応答性の分子が持っているナノ空間内に機能性分子を効率的に配列する方法を提案した.具体的には,複数のベンゼンが環状につながったカーボンナノリング分子である[n]シクロパラフェニレン([n]CPP)は固体状態でベンゼン環数nに応じて均一な「ナノ空間」を形成し,その空間の大きさに合う分子を取り込む性質をもっていることに着目した.CPPが電気刺激に応じて構造を変化させることを確かめた後,機能性分子のヨウ素(I2)をCPPとともにクロロホルムに溶解,乾燥させて,カーボンナノリング-ヨウ素複合体([n]CPP-I)を作った.n=10の[10]CPP-Iに直流電圧500mVを加えると試料の電気抵抗が大きく変化し,交流電気抵抗率(ρ)は,直流電圧印加前の2.2×108Ωcmから直流電圧印加時間とともに低下し,150分後には5.8×105Ωcmと,3桁近く減少した.n=12ではρの減少が1桁程度になり,n=9ではほとんど変化しない.nによるナノ空間変化の影響と見られる.[10]CPP-Iの蛍光スペクトルは,青緑領域にあった発光ピークが電圧印加時間とともに発光ピークの幅が広がり,最終状態では,ほぼ可視光領域全体に広がった.写真撮影すると,青緑色発光から白色発光に変化していた.電子伝導性とともに白色発光が得られたことになる.

 X線吸収端スペクトル,ラマン分光,X線回折の測定を行うと,CPP集合体の「ナノ空間」内で,ヨウ素分子は連結し,陰イオン性の鎖状構造に変化していることがわかり,これが導電性の発現の起源であることが明らかになった.蛍光色の変化は,規則的に並んでいた中性のヨウ素分子I2が,電圧により陰イオン性のヨウ素鎖に変化してランダムに並ぶようになり,CPP中の電子エネルギーが様々な値に変化したためと考えられた.

 本研究で開発された合成手法は,光や熱,pHなど他の刺激に応答する材料の合成にも応用可能で,さらに多様な刺激応答性機能材料の発見につながることが期待されている.

(注)Noriaki Ozaki, Hirotoshi Sakamoto, Taishi Nishihara, Toshihiko Fujimori, Yuh Hijikata, Ryuto Kimura, Stephan Irle, and Kenichiro Itami, "Electro-Activated Conductivity and White Light Emission of a Hydrocarbon Nanoring-Iodine Assembly", Angewandte Chemie International Edition, Early View, Accepted manuscript online: 6 June 2017, DOI: 10.1002/anie.201703648