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ゲルマニウム単結晶の超薄膜化により電子移動度が飛躍的に向上 ~集積回路の高速化と低消費電力化に貢献~

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)は2017年6月5日,同研究所ナノエレクトロニクス研究部門前田 辰郎 研究主幹らが,シリコン(Si)に性能が優る材料として注目されているゲルマニウム(Ge)の膜厚10nm以下の均一な超薄膜構造の作製法を開発し,Ge超薄膜中の電子移動度が著しく向上することを発見したと発表した.この研究成果の詳細はVLSI Technologyシンポジウムで公開された(注).

 Geは,トランジスタ発明の初期に用いられたが,早期に集積化が容易なSiが入れ替わった.Si LSI(大規模集積回路)の大規模集積化は,デバイスの微細化と動作電圧の低減による低エネルギー化で実現してきた.しかし,Siの物性の物理的限界に近づいてきて動作電圧による低エネルギー化が困難となってきた.そこで,Siより電子や正孔の移動度が高く,低電圧で動作するGeを用いたLSIの研究開発が進められている.

 産総研では,高性能Geトランジスタの研究を,NEDOの「次世代半導体材料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト(平成13~22年度)」以来継続している.その中で高品質の単結晶Ge薄膜の形成技術の確立に向け,独自の低温貼り合せ技術と高度な半導体転写法を用いた高品質Ge薄膜の形成技術を開発してきた.

 今回,半導体転写技術を高度化し,膜厚10nmのGe単結晶薄膜を作成できるHEtero-Layer Lift-Off(HELLO)法を開発した.まず,ヒ化ガリウム(GaAs)基板上に剥離層となるヒ化アルミニウム(AlAs)層を形成し,その上に高品質の超薄膜Ge/SiGe/Ge複層膜構造をヘテロエピタキシャル成長させる.その上に酸化アルミニウム(Al2O3)絶縁膜を堆積させたあと,この積層構造を逆さにして,Al2O3面を二酸化ケイ素(SiO2)膜を付けたSi基板と貼り合わせて転写する.AlAs層だけを薬液により溶解してGaAs基板を剥離(リフトオフ)した後,露出したGeをSiGe層をストッパとして,続いてSiGeをエッチングで取り除き,最終的に残った超薄膜Ge構造を原子層レベルエッチングで精密に膜厚を制御する.このGeの超薄膜層をチャネル層としその上にAl2O3ゲート絶縁膜と窒化タンタル(TaN)金属ゲート電極層を重ねてトランジスタを形成した.

 この単結晶Ge超薄膜の電子移動度(µn)は,13nmから3nmに薄膜化するにつれて従来の常識に反して急激に上昇する現象が見られ,膜厚13nmでµnがピークを示すシート電子密度(ns)5×1012cm-2では,3nmのµnは2.5倍にまで増加している.膜厚の減少とともにピーク値は高くなりピーク位置は低密度に移行する.膜厚3nmではns=5×1011cm-2がピークでµn=500cm2V-1s-1となった.

 理由は,10nm以下のGe構造は量子化され,エネルギーバンド構造が大きく変化したためと考えられる.第一原理計算による,伝導帯の谷の形状が変化し,有効質量の小さな電子が増加する現象と符合する実験結果が初めて得られた.Geの伝導帯は2つの谷を持つが,薄層化すると有効質量が大きくエネルギーの低い谷のエネルギーが上昇するため,エネルギーが高く有効質量の小さい谷の電子占有確率が増加するとしている.

 今後,2年以内により精度の高い薄膜化プロセスを確立し,移動度向上を実証するとともにそのメカニズムを解明する.また,3年以内に民間企業などへの技術移転を目指すという.

(注)W. H. Chang, T. Irisawa, H. Ishii, H. Hattori, H. Ota, H. Takagi, Y. Kurashima, N. Uchida and T. Maeda, "First Experimental Observation of Channel Thickness Scaling (Down to 3 nm) Induced Mobility Enhancement in UTB GeOI nMOSFETs", 2017 Symposium on VLSI Technology, SESSION 14 SiGe / Ge FET 2, T14-1 (2017.6.8)