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新たな物理現象,逆磁気キャパシタンス(iTMC)効果を発見 ~磁石の向きにより電気の溜まり方を自在にコントロール~

 北海道大学,東北大学および米国ブラウン大学は2017年6月2日,北海道大学電子科学研究所附属グリーンナノテクノロジー研究センターの海住英生准教授,西井準治教授,同大学院工学研究院の長浜太郎准教授, 島田敏宏教授らは,東北大学多元物質科学研究所の北上 修教授,ブラウン大学物理学科の萧 鋼教授と共同で,磁場によりキャパシタンスが変化する現象に関して,従来から知られている順方向の変化(TMC)と異なり逆方向に変化する「逆磁気キャパシタンス(iTMC)効果」と呼ぶ新現象を発見したことを発表した.この成果は,新たな電気容量検出型の高感度磁気センサー・磁気メモリー誕生への道を切り拓くものとしている.本研究は,科学研究費補助金基盤研究(B),「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンス」,「スピントロニクス学術研究基盤と連携ネットワーク拠点整備事業共同研究プロジェクト」,及びブラウン大学におけるNational Science Foundationなどの支援を受けて実施され,研究成果はScientific Reportsオンライン版で公開された.ブラウン大学からも"Researchers flip the script on magnetocapacitance"と題するニュースが発信されている.

 次世代のエレクトロニクスとして期待されるスピントロニクスでは,2つの磁性層の間に薄い絶縁層を挟んだ磁気トンネル接合が室温でも大きな磁気キャパシタンス(TMC)効果を示すことから,世界中で研究されてきた.TMC効果とは2つの磁性層の磁化の向きが互いに平行であるときキャパシタンス(電気容量;電気が溜まる量)が「大きく」,反平行であるとき「小さく」なる現象である.

 今回,海住准教授らの研究グループは,その逆の現象,すなわち,2つの磁性層の磁化が平行であるときキャパシタンスが「小さく」,反平行のとき「大きく」なる現象の発現に挑戦した.この現象を実現すれば,ノイズが大きい従来の磁気センサー・メモリーとは異なり,高感度かつ低消費電力の新しいセンサー・メモリーの可能性が生まれる.鉄とこれを酸化させた酸化鉄はともに磁石にくっつくが,酸化鉄は鉄と同じ方向に磁化させると, 電流を担う電子のスピンの向きが鉄とは逆になる.これを利用することを考えた.

 研究グループは分子線エピタキシー法を駆使して,鉄と酸化鉄(Fe3O4)の間に薄い酸化アルミニウム(AlOx,2-4nm厚)を挟んだ,超高品質な磁気トンネル接合を作製した.このデバイスの磁場中でのキャパシタンスの特性を調べたところ,鉄と酸化鉄の磁化が平行と,反平行でキャパシタンスの大小が,通常のTMC効果とは逆になることが確認された.これを逆磁気キャパシタンス(iTMC)効果と名付けた.

 量子力学を取り入れた電荷蓄積理論により,実験結果をよく説明でき,TMC効果の1.5倍になる可能性が示された.理論計算によると,窒化鉄とコバルト鉄ホウ素合金の間に薄い酸化マグネシウムを挟んだ磁気トンネル接合では,キャパシタンスの変化率が今回の実験値より約10倍も大きくなることも分かった.これを機に研究が進めば,高感度・低消費電力磁気センサーやメモリー,将来的には磁気カードリーダー,GPS等位置検出センサー素子,パソコン・スマートフォン用不揮発性メモリーへの応用が展開されるとしている.

(注)H. Kaiju, T. Nagahama, S. Sasaki, T. Shimada, O. Kitakami, T. Misawa, M. Fujioka, J. Nishii, and G. Xiao, "Inverse Tunnel Magnetocapacitance in Fe/Al-oxide/Fe3O4", Scientific Reports, Vol. 7, Article number: 2682 (2017), doi: 10.1038/s41598-017-02361-4; Published online: 01 June 2017