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酵素を1分子ずつナノメートルの精度で狙い通りに並べる ~多段階の反応が効率的に進行する分子コンビナート~

 京都大学は2017年6月1日,同大学エネルギー研究所の森井 孝教授,中田 栄司准教授らのグループが,DNAナノ構造体上の狙った場所に複数種類の酵素を1分子ずつ正確に並べることに成功したと発表した.本研究は独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)の科学研究費補助金の支援を受けて行われ,成果は米国化学会誌Journal of the American Chemical Societyのオンライン速報版に掲載された(注).

 生体の細胞内は雑然としているようであるが,そこで行われる化学反応に関与する酵素などの分子は,さながら製品を効率よく生み出すコンビナートのように整然と並んでいる.このような「分子コンビナート」を細胞外で構築できれば,酵素反応を利用した高効率な物質生産システムとしての利用が期待される.分子コンビナートを実現するには,段階的反応が効率よく連続して進むよう,ナノメートルサイズの酵素を1分子ずつ決まった場所に並べることが必要である.研究グループは,酵素分子を配列する足場としてDNAで形成されるナノ構造体「DNAオリガミ」を利用した.DNAオリガミは,長い一本鎖DNAと,それと相補的な短いDNA鎖を組合せて,長鎖DNAを折りたたむことで作られるナノサイズの構造体である.酵素分子をDNAオリガミの狙った場所に正確に並べるために目印が必要であり,それにはオリガミに導入されたさまざまな塩基配列のDNAが「番地」として利用された.特定のDNAのみに結合するタンパク質が案内役(アダプター)となり,酵素が目的の番地まで運ばれる.

 研究グループは,酵素の持つ特定基質と共有結合を形成できるタグタンパク質と,DNAと結合性のタンパク質(ジンクフィンガー)を融合したモジュール型アダプターの開発研究を行ってきた.しかし,これまで開発されたアダプターは1種類のみで,さまざまな酵素に対応することはできなかった.本研究では,タグタンパク質とDNA結合性タンパク質をそれぞれ3種類ずつ使い,これらを組み合わせることで9種類のモジュラー型アダプターが設計された.そのなかから,狙った番地に迅速かつ高収率で酵素を安定に配置できる3種類のモジュール型アダプターが選び出された.AFM(原子間力顕微鏡)観察によると,これらのアダプターは理論値の90%以上でDNAオリガミの特定の番地に酵素を配置させることができる.開発されたアダプターを利用して,キシロースからキシリトール,キシリトールからキシルロース,キシリロースからキシリロース-5-リン酸への代謝反応を触媒する3つの酵素を数10nmの間隔で配列した連続反応システム(分子コンビナート)が構築された.実現された分子コンビナートと,単に酵素を混合して反応させた場合とを比べると,分子コンビナートの方が最大で約33%高い反応効率が得られた.反応効率には酵素間の距離も影響を与え,約10nm間隔では約50nm間隔の場合より高い効率が得られた.

 本研究の成果をさらに発展させ,モジュール型アダプターの種類を増やすことで,より複雑な反応や,単に酵素を混ぜ合わせただけでは進行しないような反応が可能になるものと期待されている.

 (注)Thang Minh Nguyen, Eiji Nakata, Masayuki Saimura, Huyen Dinh and Takashi Morii, "Design of Modular Protein-Tags for the Orthogonal Covalent Bond Formation at Specific DNA Sequences", Journal of the American Chemical Society, Just Accepted Manuscript, DOI: 10.1021/jacs.7b01640; Publication Date (Web): May 18, 2017