ナノテク情報

デバイス・応用

ダイヤモンド論理回路チップの開発 ~過酷環境下に強いダイヤモンド集積回路の開発へ前進~

 国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)は2017年5月31日,同機構 機能性材料研究拠点の劉江偉独立研究者,技術開発・共用部門の小出康夫部門長らの研究グループが,過酷環境下に強いダイヤモンド集積回路の第一歩として,エンハンスメント(E)とデプレッション(D)の2種類の動作モードを持つ金属-酸化物-半導体(MOS)電界効果トランジスタ(FET)を組み合わせたダイヤモンド論理回路チップの開発に成功したと発表した.本研究は文部科学省 科学技術人材育成費補助事業「卓越研究員事業」等の一環として行われ,デバイス作製において文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業 NIMS微細加工プラットフォームの支援を得て行われた.本成果は,米国速報論文誌IEEE Electron Device Lettersで公開された(注).

 ダイヤモンドは炭素単元素で構成され,窒化ガリウム(GaN),炭化ケイ素(SiC)とともに,ワイドバンドギャップ半導体として高電力および高周波電子デバイスへの応用が期待されている.この中でもダイヤモンドは,高温,高出力,高周波等の過酷環境下でも安定に動作する電流スイッチおよび集積回路を構成できると見られている.一方,MOSFETでこれらのデバイスを構成する時に広く用いられる基本回路がEDゲートであり,EモードとDモードのMOSFETを同一基板に作製する必要があるが,ダイヤモンドでは作製に成功していなかった.これに対し,研究グループは,FETのチャネル構成,酸化膜形成等の個別要素技術の開発を積み上げて,EDゲートの作製,論理回路の構成に成功した.

 ダイヤモンド表面を水素で終端すると表面近傍の電子が表面吸着アクセプタに遷移してダイヤモンド表面上に二次元正孔が蓄積され,FETのチャネルに利用できる.しかし,チャネル形成のしきい値電圧の正負を制御することが難しかった.研究グループは,光電子分光法による酸化物と水素終端ダイヤモンド界面のバンド構造解明等を行い,その知見をもとに,ダイヤモンドMOSFETのDモードとEモードの制御プロセスを開発し,そのメカニズムを明らかにした.Dモードは原子層堆積(ALD)法によるAl2O3酸化物単層で得られる.一方,ALDとスパッタリング堆積(SD)技術によって二層酸化膜ゲート構造を作製し,150~350℃でアニーリングすると,2層酸化物間の反応によって酸化物ゲート内の電荷分布が変化し,Eモードを得ることができた.2層積層にはランタンアルミニウム/アルミニウム酸化物(LaAlO3/Al2O3)を用いている.

 論理回路チップは,マイクロ波プラズマ化学気相成長法によって3mm角の単結晶ダイヤモンド基板上に水素終端ダイヤモンドエピタキシャル層を成長させ,酸化膜被着,電極付け,プラズマ反応性イオンエッチング,レーザリソグラフィ法によるパターニングを行って作製した.リソグラフィ工程におけるレジストの180℃アニーリングで2層酸化物間反応が進む.相互コンダクタンスgmは,Eモード,Dモードとも17mS/mmであった.負荷のD-FETとドライバーのE-FET1個でNOT,E-FET2個並列でNOR回路を構成し動作を確認した.NOT回路の利得は電源電圧-5.0Vから-25.0Vへの変化に対し1.2から26.1に増加した.

 本成果により,過酷環境下でも動作する論理回路やデジタル回路が組み込まれた半導体装置の道が切り開かれ,ダイヤモンド論理回路の産業用としての利用が拡大することを期待している.

(注)Jiangwei Liu, Hirotaka Ohsato, Meiyong Liao, Masataka Imura, Eiichiro Watanabe, and Yasuo Koide, "Logic circuits with hydrogenated diamond field-effect transistors", IEEE Electron Device Letters, DOI: 10.1109/LED.2017.2702744; Date of Publication: 09 May 2017