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固体中で熱を特定の方向に流し,一点に集めることに成功 ~熱制御に新しい選択肢~

 東京大学と国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)は2017年5月18日,東京大学生産技術研究所附属マイクロナノ学際研究センターの野村 政宏 准教授,Roman Anufriev特別研究員らが,シリコン薄膜にナノ構造を形成することで熱流に指向性を与え,集熱することに成功したと発表した.本研究は,JST戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ),文部科学省イノベーションシステム整備事業,独立行政法人 日本学術振興会科学研究費補助金の支援を受けて行われ,成果はNature Communications誌にオンライン掲載された(注).

 エレクトロニクスやフォトニクス分野ではナノテクノロジーの応用が進んでいるが,材料分野で熱伝導制御へのナノテクノロジーの積極的利用が始まったのはごく最近のことである.固体中の熱伝導はフォノンの移動現象であり,熱はフォノンの拡散により輸送される.フォノンは平均自由行程内では弾丸のように直線的に移動し,固体中にフォノンの平均自由行程程度の小さな構造が存在すると,フォノンはフォノン同士で衝突する前に構造界面と衝突するので,ナノ構造によりフォノン移動の制御ができると考えられる.本研究では,ナノサイズの構造による固体熱伝導の制御(指向性付与や集熱)ができることをシミュレーションで確認し,実験による検証が行われた.

 本研究に用いられた熱伝導測定サンプルは,厚さ150nmのシリコン(Si)薄膜,1µmのSiO2層を持つSOIウェーハで作られた両持ち梁で,Si/SiO2膜には熱流を制御する半径100nm程度の円孔が多数開けられている.梁の中央にはアルミ薄膜があり,これを光パルスで瞬間加熱し,その後の温度変化を加熱用とは別のレーザで光学的に観測する.これにより,ナノ構造を通じた熱散逸時間と,ナノ構造の形状や配置との関係から熱移動の評価が行われた.本研究で用いられた光学的温度観測法によれば,従来のマイクロヒーターと測温素子を使う方法に比べ,桁違いに多数(1cm2あたり1万個程度)のナノ構造を持つサンプルに適用が可能で,系統的に誤差の少ない測定が可能である.

 実験では,周期320nmで縦横に規則正しく円孔を配列したフォノニック結晶構造から抜け出たフォノンが,細線構造(スリット状)に入って行きやすい構造(結合構造)と,半周期横方向にずらしてフォノンが入りづらい構造(非結合構造)を設け,それぞれの熱散逸時間を計測した.結合構造では非結合構造に比べ熱散逸が低温では16%,室温でも7%速く,熱に指向性を持たせることが可能であることが実証された.また,焦点となる一点から円孔を放射状に配列したレンズ構造では,焦点に熱の移動路を設けると熱散逸が速まることから,熱が焦点に集まることも確認された.

 本研究の成果は,フォノンエンジニアリング分野の基礎となり,高度な熱マネジメントが望まれる半導体分野への応用が期待されるという.

(注)R. Anufriev, A. Ramiere, J. Maire, and M. Nomura, "Heat guiding and focusing using phononic nanostructures", Nature Communications, Vol. 8, Article number: 15505 (2017), doi: 10.1038/ncomms15505; Published online 18 May 2017