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低温で高い性能を示す熱電変換材料の発見 ~超伝導素子・線材などの局所冷却に道を拓く~

 名古屋大学は2017年5月1日,同大学大学院工学研究科 岡本 佳比古 准教授らの研究グループが,室温以下の幅広い温度域で,熱を電気に変える性能が,現在実用されている材料より格段に優れた新しい熱電変換材料を発見したと発表した.この研究は,名古屋大学研究強化促進事業・若手新分野創成研究ユニットの活動によるもので,日本学術振興会・科学研究費補助金,公益財団法人中部電気利用基礎研究振興財団・研究助成,公益財団法人池谷科学技術振興財団・単年度研究助成,公益財団法人旭硝子財団・研究奨励の支援を受けて実施された.原著論文は米国物理学協会刊行の速報論文誌Applied Physics Lettersに掲載された(注).

 熱電変換は電子が電気だけでなく熱も運ぶ性質を利用して,熱と電気を直接変換する機能で,この機能をもつ材料が熱電変換材料である.熱の電気への変換は,廃熱を使って排出物なしに発電する熱電発電に用いられる.一方,電気から熱への変換は,電流を流すことによって温度差を生じさせるペルチエ効果を用いて,冷媒を用いない冷却への応用が期待される.熱電材料の性能は,温度差によって発生する起電力を表すゼーベック係数S,電気抵抗率ρ,熱伝導率κで決まり,これを組み合わせた性能指数の一つが出力因子P=S2/ρである.熱電発電では高温性能が求められるが,熱電冷却では低温の性能が高くなければならない.しかしながら,現在実用になっているBi2Te3系の熱電材料の性能は室温付近で高いため,熱電冷却の応用は赤外線センサの冷却や半導体レーザーの温度制御などが主たるものであった.一方,-200℃といった低温で熱電冷却を利用できれば,量子コンピュータや超伝導素子を局所的に冷却し,動作させることが可能になる.

 これに対し,研究グループは,タンタル(Ta)とシリコン(Si)を含む一次元テルル(Te)化合物 Ta4SiTe4の針状結晶が,-100℃から-200℃において実用材料Bi2Te3の300KにおけるS=240µV/Kの2倍近いS=400µV/Kの大きな熱起電力を示すことを発見した.電気抵抗率はともにρ=2mΩ・cm程度の低い値である.この結果,冷却能力の目安となる出力因子は室温でP=40µW/cm・K2とBi2Te3のP=35µW/cm・K2と同等で,Pが最大となる130KではP=80µW/cm・K2と,室温におけるBi2Te3の2倍を超える.

 また,Ta4SiTe4にモリブデン(Mo)やアンチモン(Sb)を添加して精密に化学組成を制御すると,S,ρの値とその温度変化を制御できる.例えば,(Ta1-xMox)4Si(Te1-ySby)4の組成において,x=0.001,y=0の時P最大の温度は240K,最大値170µW/cm・K2となり,x=0,y=0.05の時30~180KでS=500µV/K程度となる.本材料に現れる優れた性能は,結晶構造に由来する一次元性の強い電子状態と,ディラック電子系であることによる非常に小さいバンドギャップが,一つの物質に共存していることに起因しているという.

 本研究の成果は,低温熱電冷却を可能にし,室温において高い性能の熱電材料を提供するとともに,高性能熱電材料探索の指針を示唆するものとしている.

(注)Takumi Inohara, Yoshihiko Okamoto, Youichi Yamakawa, Ai Yamakage, and Koshi Takenaka, "Large Thermoelectric Power Factor at Low Temperatures in One-Dimensional Telluride Ta4SiTe4", Applied Physics Letters, Vol. 110, p. 183901 (2017); doi: 10.1063/1.4982623; Published Online: May 2017