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多糖類から「ゼロ複屈折ポリマー」の開発に成功 ~プルランの階段状分子構造を保持した光学フィルム用材料~

 東京大学,国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST),および北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は2017年4月18日,東京大学大学院 農学生命科学研究科 岩田 忠久教授らの研究グループが,多糖類の一種であるプルランを出発原料として,光学特性に優れたゼロ複屈折ポリマーの開発に成功したと発表した.本研究は,JST戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)と文部科学省 科学研究補助金基盤研究Aの一環として行われ,成果はScientific Reports誌に掲載された(注).

 複屈折は光の偏光方向によって屈折率が異なる現象で,分子の配向によって偏光を制御する液晶ディスプレイの偏光板の保護フィルには,垂直・水平偏光の屈折率差がゼロのゼロ複屈折ポリマーが求められ,セルローストリアセテート(CTA)などのゼロ複屈折材料が用いられている.これに対し,本研究グループは,多糖類の一種であるプルランの特徴的な分子構造に着目し,光学特性に優れた,新たなゼロ複屈折ポリマーを開発した.

 プルランの分子は,二つのα-1,4結合と一つのα-1.6結合を繰り返すことで,グルコースが階段状につながった珍しい構造を持っている.プルランは,微生物(黒酵母)により合成される水溶性多糖類の一種で,主に食品添加剤や可食性フィルムに利用されてきたが,これまで光学材料として用いられたことはなかった.研究グループは,プルラン分子のグルコースに存在する三つの水酸基(-OH)を,酢酸でエステル化してプルランアセテート(PLAc)とすることにより,プルランの特徴である階段状分子構造を保持した状態の「ゼロ複屈折ポリマー」を合成した.ゼロ複屈折の発現は,階段状分子構造が分子配向を抑制するためと考えられる.PLAcを溶剤(トリクロロメタン)に溶解し,キャストして乾燥することで,厚さ90µm,可視光線透過率がおおよそ85から88%である透明フィルムが得られた.さらに,キャスト法によるPLAcフィルムを,ガラス転移温度(164℃)以上の温度で一軸方向に延伸したフィルムも得られた.キャスト法PLAcフィルムの波長450nmから750nmにおける面外複屈折(Δnth×104)は,おおよそ0から0.3,また,同じ波長域における延伸フィムルの複屈折(Δno×104)は,おおよそ-0.5から-0.3であった.一方,同じ条件で比較したCTAフィルムは,面外複屈折が0.3から2.7,複屈折が-8から-5であり,PLAcフィルムの光学的等方性は全可視波長域でCTAフィルムに比べ良好である.本研究では,PLAc以外に,プルランアセテートプロピオネート(PLAcPr),プルランプロピオネート(PLPr)も合成され,PLAcと同様に低い複屈折と良好なフィルム特性が得られている. 

 従来の材料では複屈折をゼロに近づけるために種々の添加剤が使用されているが,今回開発されたプルランから作られる「ゼロ複屈折ポリマー」は,添加剤を全く必要としない.さらに,置換するエステル基により屈折率の制御も可能で,位相差フィルムなど多方面への応用も期待される.今後,研究グループでは,溶融押出し成形などの工業手法によるゼロ複屈折フィルムの作製を行うとしている.

(注)Takahiro Danjo, Yukiko Enomoto-Rogers, Hikaru Shimada, Shogo Nobukawa, Masayuki Yamaguchi, and Tadahisa Iwata, "Zero birefringence films of pullulan ester derivatives", Scientific Reports, Vol. 7, Article number: 46342 (2017), doi: 10.1038/srep46342; Published online: 18 April 2017