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高屈折率で透明なTiO2薄膜の簡便な作製方法を開発 ~光学機器の性能向上や作製工程の簡素化・低コスト化に期待~

 東北大学は2017年4月18日,同大学大学院工学研究科博士課程2年石井 暁大(日本学術振興会特別研究員),高村 仁教授らの研究グループが,日本電気硝子株式会社との共同研究により,高屈折率で透明なTiO2薄膜をガラス基板上に低温で作製する技術を開発し,光の反射・透過を制御する多層膜コーティングの作製に成功したと発表した.この技術により,カメラや液晶プロジェクターなど様々な光学機器の性能向上や作製工程の簡素化・低コスト化が期待されるという.本成果は,オランダのElsevier社が発行する科学雑誌Applied Surface Scienceにオンライン掲載された(注).

 カメラや液晶プロジェクターなどの光学機器では,レンズやプリズムの表面での光の反射・透過を制御するために,屈折率の異なる材料を層状に重ねた多層膜コーティングが施されている.この多層膜コーティングに使う透明な高屈折率層としては,種々の酸化物の中で最も高い屈折率を持つ材料であるTiO2が,広く利用されている.TiO2はルチル型という正方晶系の結晶構造になるとき屈折率が3.0以上,ダイヤモンドの約1.3倍になる.しかし,薄膜でその結晶構造を実現するためには高価な単結晶基板や,700℃程度の高温成膜プロセスが必要であり,ルチル型TiO2薄膜の実用化には大きな障壁があった.そのため,現在広く用いられている真空蒸着やスパッタ法により作製されたTiO2薄膜は材料本来の高い屈折率を示していなかった.

 これに対して,研究グループは成膜にパルスレーザー堆積(PLD)法を用い,TiO2にAlを添加することにより,安価なガラス基板上に比較的低温の350℃で,ルチル型TiO2薄膜の作製に成功した.PLD(Pulsed Laser Deposition)法は,薄膜の元になるターゲット材に強力なパルスレーザー光を照射し,その表面を瞬間的に蒸発,プラズマ化させ,それを基板まで飛ばして堆積させることで薄膜を作製する方法である.ルチル型構造が誘起されるのは,一部のAl3+がTi4+を置換しアクセプターとして機能することで,酸素(O2-)空孔が導入されるためと考えられる.Al添加10mol%で,高屈折率n≈3.05,消衰係数(複素屈折率の虚数部)k≈0.01(波長λ=400nm~,表面粗さパラメータRa≈0.8nmという高品位(透明・緻密・平滑な)TiO2薄膜を得た.この透明で高い屈折率を持つルチル型TiO2薄膜を多層膜コーティングに用いることで,従来品よりも広い可視光波長領域(480nm~600nm)で高い反射率(>98%)を示す高性能可視光ミラーを作製することができた.

 本研究により,透明で高屈折率なルチル型TiO2薄膜をガラス基板上に比較的低温で成膜する技術が得られた.この技術は,超高性能な反射防止膜など様々な光学機器への応用と,その製造プロセスの簡素化・低コスト化への貢献が期待されるという.また,TiO2薄膜は多層膜コーティング以外にも光触媒やメモリー,二次電池電極材料として精力的に研究・開発されているので,本手法による結晶構造制御はこれらの応用分野にも波及することが期待されるとしている.

(注)Akihiro Ishii, Kosei Kobayashi, Itaru Oikawa, Atsunori Kamegawa, Masaaki Imura, Toshimasa Kanai, and Hitoshi Takamura, "Low-Temperature Preparation of Rutile-Type TiO2 Thin Films for Optical Coatings by Aluminum Doping", Applied Surface Science, Vol.412, 1 August 2017, pp.223-229; doi: 10.1016/j.apsusc.2017.03.253; Available online 30 March 2017