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集まる分子が少ないミセルでは飛び飛びで不連続な会合数を取る ~高校の化学の教科書の記載が変わるかもしれない発見~

 北九州市立大学,公益財団法人 高輝度光科学研究センター(JASRI),有明工業高等専門学校は2017年3月22日,北九州市立大学の櫻井 和朗教授,JASRIの八木 直人コーディネーター,有明工業高等専門学校の大河平 紀司准教授らの研究グループが,石ケン分子が水中で集合してできるミセルの会合数に関する従来の概念は必ずしも正しくないことを発見したと発表した.本研究の成果は科学誌Scientific Reportsで公開された(注).

 洗剤や化粧品などさまざまな用途で使われるミセルは,ひとつの分子内に親水部と疎水部を持つ化合物(両親性化合物)から作られる.ミセルの形状は球状が最も一般的で古くから研究され,1913年にマックベインが提唱した親水部を外側に,疎水部を内側に配列した分子からなる球状ミセルの概念は一貫して正しいとされ,高校教科書にも記載されている.これによると,球状ミセルは数十から百数十の分子が集まって作られ,会合数(ミセルを形成する分子の数)は,親水部と疎水部のバランスにより決定されるもので,系の状態や分子の化学構造により熱力学的に安定なところに連続的に変化するとされてきた.研究グループは,以前に行われた医薬品のDDS用ナノ粒子研究において,SPring-8のBL40B2高輝度放射光X線溶液散乱を使った構造解析やその他の物性解析から,カリクサレン系の両親性化合物が作る球状ミセルが,会合数6の単分散であることを見出していた.本研究では,さらに周辺化合物を詳細に調べ,会合数30以下では,取り得る会合数は4,6,8,12,20,24のどれかの値に限定されることを明らかにした.従来のミセルの概念では,溶媒条件などを連続的変化させると,会合数にも連続的な変化が見られるはずであるが,観測された会合数は6→8→12のように不連続にしか変化しない.また,カリクサレン系両親性化合物の炭素数を3→4→5→6→7と変化させたときにも,対応するミセルの会合数は8→8→12→12→20のように飛び飛びに変化した.

 このような現象は,これまで放射光X線のような高精度測定手段がなく気付かれなかっただけで,カリクサレン化合物に限らず,石ケンや脂質などの両親性化合物で作られる会合数30以下の小さいミセルであれば,すべての化合物で会合数は2,4,6,8,12,20,24から選ばれる値になると考えられる.興味深いことに,これらの数はプラトンの正多面体の面数と一致していることから,研究グループはこれらのミセルを「プラトニックミセル」と名付けている.

 この不連続な会合数は,ミセルを作る個々の両親性化合物分子を円錐形と仮定し,「ミセル表面を構成する親水性の球帽部分が,ミセル内側の疎水性の錐部分を最も効率良く覆うような配置をとる」,という球面最密充填問題(Tammes問題)のモデルにより説明できる.30以上の会合数では32と48に被覆率のピークが予測され,このようなミセルが優勢になっているかもしれないという.本成果は人工ウィルス粒子,DDS粒子などの分子設計に役立つとしている.

(注)S. Fujii, S. Yamada, S. Matsumoto, G. Kubo, K. Yoshida, E. Tabata, R. Miyake, Y. Sanada, I. Akiba, T. Okobira, N. Yagi, E. Mylonas, N. Ohta, H. Sekiguchi, and K. Sakurai, "Platonic Micelles: Mono disperse Micelles with Discrete Aggregation Numbers Corresponding to Regular Polyhedra", Scientific Reports, Vol. 7, Article number: 44494 (2017), doi: 10.1038/srep44494; Published online: 14 March 2017