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物性・原理

整流特性の新原理を発見 ~エキゾチックな結晶における新機能の開拓~

 東京大学は2017年3月7日,同大学大学院工学系研究科 井手上敏也助教,同研究科 岩佐義宏教授(理化学研究所(理研)創発物性科学研究センターチーム リーダー兼任),永長直人教授(理研 創発物性科学研究センター副センター長兼任)らの研究グループが,空間反転対称性の破れた三次元層状化合物であるBiTeBr(Bi:ビスマス,Te:テルル,Br:臭素)が磁場を加えた状況下で整流特性を示すことを発見したと発表した.この成果の原著論文は,英国科学雑誌Nature Physicsに掲載された(注).

 印加電圧の正負によって電流の流れ方の異なる非線形特性は,電子デバイスの能動動作の基礎である.古くは1940年代のレーダーの進歩はSi点接触ダイオードの整流性の利用によるものであり,半導体pn接合の整流性を利用してトランジスタが生まれ,エレクトロニクスを支えるLSIの発展を招来した.整流性は異質の材料が接合した非対称な構造のpn接合などで実現される.一方,空間反転対称性が破れた結晶は,非線形光学応答等,様々な物理現象の舞台である.特に,整流特性は空間反転対称性が破れた物質で期待される電荷輸送現象の一つである.しかしながら,空間反転対称性が破れた物質であってもバルク材料では,pn接合のような並進非対称性を持たないため,整流性を観測することができなかった.

 これに対し,本研究グループは,空間反転対称性の破れた極性結晶構造を持つ縮退半導体であるBiTeBrにおいて,結晶対称性の破れに起因する整流特性の観測に成功した.BiTeBrは,Bi層/Te層/Br層の各原子層が順次積層した層状化合物である.積層方向への鏡像反転対称性が破れ,結晶全体で積層方向の電気分極を持つ極性物質となる.このような極性物質では,面内に磁場を印加すると分極方向と磁場方向の両方に垂直な方位へ電子状態が歪み,その方向へ整流特性が生じることが期待できる.

 実験では,BiTeBr試料を基板上に劈開(へきかい)してマイクロメートルサイズの試料を得た後,電子線描画装置を用いて電極を作製し,単一極性ドメインであると期待されるデバイスを作製した.作製したデバイスの磁場下電気伝導特性を測定したところ,磁場を電流と平行に加えた場合には整流特性は観測されず,磁場を電流に対して垂直に加えた場合にのみ整流特性が観測された.さらに観測された整流特性の温度・キャリア数依存性等を詳細に測定することにより,低温領域やキャリア数の少ない試料において,整流特性が著しく増大することを発見した.これら低温・低キャリア数領域での整流特性の増大の振る舞いやその定量的な大きさは,スピン・軌道相互作用を考慮した極性物質に特有の電子状態に基づいた微視的なモデルによって適切に説明できたという.

 本研究では,空間反転対称性が破れた結晶で観測される新しい原理の整流特性を発見し,微視的な機構を明らかにした.今後,様々な空間反転対称性の破れた結晶において,整流特性も含めた非線形電気伝導現象の包括的な研究・新機能性開拓が飛躍的に進展することを期待している.

(注)T. Ideue, K. Hamamoto, S. Koshikawa, M. Ezawa, S. Shimizu, Y. Kaneko, Y. Tokura, N. Nagaosa, and Y. Iwasa, "Bulk rectification effect in a polar semiconductor", Nature Physics (2017) doi: 10.1038/nphys4056; Published online 06 March 2017