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光受容タンパク質が応答する瞬間の動きを分子レベルで解明 ~100兆分の1秒の光パルスでタンパク質の核の動きを直接観測~

 国立研究開発法人 理化学研究所(理研)は2017年2月7日,理研 光量子工学研究領域 超高速分子計測研究チームの倉持 光研究員,田原分子分光研究室の竹内 佐年専任研究員,田原 太平主任研究員らの共同研究チームが,100兆分の1秒(10fs,1fs=10-15秒)の光パルスを用いた独自の計測手法により,光合成細菌が持つタンパク質である青色光センサーが刺激に応答する瞬間の“最初の動き”を分子レベルで観測することに成功したと発表した.原著論文は,英国の科学雑誌Nature Chemistryオンライン版に掲載された(注).

 生物は,光センサーの機能を持った光受容タンパク質で外界からの光を検知して生命活動を維持している.光受容タンパク質は,光の照射によって分子構造が変化することでその機能を発現すると考えられているが,その発現過程はfs~数秒と非常に広い時間範囲にわたっている.特に光が照射された直後のfs~ピコ秒(1ps=10-12秒)の時間領域で起こる最初の構造変化を分子レベルで捉えることは,これまで実験的に困難だった.

 これに対し研究チームは,高速で変化する光受容タンパク質の構造を観測するために「フェムト秒時間分解インパルシブ・ラマン分光法」と呼ぶ分光計測法を,独自に開発した.新開発の時間分解分光法では,3つのフェムト秒光パルスを使う;①波長450nmの青色光を光受容タンパク質に照射し,反応を開始させる.②次に反応中間状態のタンパク質に極短パルス光(実験で用いたのはパルス幅7fs未満)を照射することで,タンパク質分子内の原子を強制的に振動させる(インパルシブ誘導ラマン過程).③さらにこの分子の揺れる様子を,時間的に遅れたもう一つの極短パルス光を使って吸光度観測する.反応を開始させる青色光を照射してから分子を揺さぶる光を照射するまでのタイミングを変えて測定を繰り返すことで,これまで困難とされていたフェムト秒の時間領域で光受容タンパク質の構造が時々刻々変化する様子が観測できる.

 実験では光受容タンパク質として,光合成細菌の一種で青色光が当たると光の方向とは逆方向に自発的に動く機能を担う光センサーである「イエロープロテイン(PYP)」を対象にして測定した.PYPの反応初期過程でまず光反応開始直後(0.1ps経過)に,135cm-1の周波数を持つ分子の振動(約240fs周期)が明瞭に観測された.ところが0.25ps,0.4ps経過後を見ると,この強い振動は即座に減衰してほとんど観測されなくなっていた.この振動の減衰は,PYPの大きなタンパク質分子の中で青色光を吸収する発色団分子と,それに隣接するアミノ酸残基との間の水素結合が弱まり,水素結合構造が変化するためと解析された.また,光反応開始から60ps程経つと,0-100cm-1,600-700cm-1,700-750cm-1辺りに新たな振動が現れ,「I0状態」と呼ばれる光反応中間体が出現する.量子化学計算などを駆使して解析した結果,反応開始前にトランス型であった発色団が,この「I0状態」では異性化して,ねじれたシス型になっていることが判明した.

 今後,本手法は光合成,視覚,色認識,植物の屈光性など生物学的に重要な多くの光反応の初期過程を明らかにするだけでなく,より優れた機能を持つ新しいタンパク質の設計,創製につながると期待される.

(注) Hikaru Kuramochi, Satoshi Takeuchi, Kento Yonezawa, Hironari Kamikubo, Mikio Kataoka, and Tahei Tahara, "Probing the early stages of photoreception in photoactive yellow protein with ultrafast time-domain Raman spectroscopy", Nature Chemistry, (2017) doi:10.1038/nchem.2717; Published online 06 February 2017