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高アスペクト比シリコン貫通穴の作製技術 ~フェムト秒ベッセルビームの最適化に成功~

 国立研究開発法人 理化学研究所(理研)は2017年1月18日,光量子工学研究領域 理研-SIOM(中国科学院上海光学機械精密研究所)連携ユニットの杉岡幸次ユニットリーダーらの国際共同研究チームが,最適化した「フェムト秒(10-15秒:fs)ベッセルビーム」を用いて,次世代の3次元シリコン大規模集積回路(Si LSI)の高集積化・高速度化につながる高品質・高アスペクト比の「シリコン貫通穴(TSV: Through Silicon Via)」を作製する技術を開発したと発表した.原著論文は,英国の科学雑誌Scientific Reportsに掲載された(注).

 電子機器の小型化・高密度集積化を実現するために,Si LSIチップを複数枚積層する3次元化が有望である.上下に積層されたチップ同士の配線は,TSVに金属を充填したSi貫通電極によって行われる.TSVは現在,穴径(幅)50µm・アスペクト比(深さ/幅)10程度のものを,側壁保護膜形成と深堀エッチングを交互に反復して形成しているが,エッチング速度が遅い,レジスト(保護膜)を用いたリソグラフィ工程が必要といった問題がある.

 これに対し国際共同研究チームは,レジストを用いずに高品質な微細加工を高速で行うことができるfsレーザー加工に着目した.超短光パルスなので,熱の広がりの影響が無視できる.通常のレーザー光はレンズで集光して小さな径の穴を加工しようとすると,焦点深度が浅くなり深穴は掘れない.すなわち,高アスペクト比の穴加工は難しい.そこでfsレーザー光(波長1.5µm,パルス幅65fs)を,ビームが広がることなく集光径を保ったまま伝搬する“ベッセルビーム”に整形した.ベッセルビーム断面の光強度分布は第1種ベッセル関数で記述され,セントラルローブ(中心スポット)と複数のサイドローブ(回折リング)で構成される.ベッセルビームは,アキシコン(円錐形状)レンズ(Axicon Lens: AL)をビーム進行軸に挿入して生成できる.実際にベッセルビームを用いてSi基板にTSV加工を行うと,高アスペクト比のTSVは形成できたが,TSVの周辺に回折リング光による同心円状の損傷が生じてしまう問題に直面した.

 そこで,回折リング光を低減するために,二段階構造の位相板(位相差が0とπの2段階,同心円構造)をALと組合わせ,fsベッセルビームの空間強度分布を最適化した.位相板とALを透過したレーザー光の3次元空間強度分布をシミュレーションし,位相板の二段階構造デザイン(位相差リング数とリング径)を調整することでサイドローブ間干渉が相殺されるように最適化した.シミュレーションの結果,ALのみを用いた従来のベッセルビームでは回折リングエネルギーと中心スポットエネルギーの比が15.6%と大きいが,調整したデザインの位相板をALと組合わせると0.6%まで低減できた.最適化デザインの位相板は,光学ガラス基板にフォトリソ法で作製した.実際に,この位相板を挿入したfsベッセルビーム(直径6µm,焦点深度420µm)を用い,厚さ100µmのSi基板へTSV加工を施した結果,穴径~7µm,アスペクト比~15(深さ100µm)の回折リング光による損傷が全くない,高アスペクト比のTSVを作製することに成功した.

 最適化したfsベッセルビームは,3次元Si LSIのTSVの作製だけでなく,様々な基板の深穴加工や切断加工に応用できる.また,細胞レベルでタンパク質などの分布・動態を捉えるバイオイメージングや,レーザー光によって微小物体を捕捉・操作するレーザートラッピングなど,広範な分野への応用が期待できる.

(注) Fei He, Junjie Yu, Yuanxin Tan, Wei Chu, Changhe Zhou, Ya Cheng, and Koji Sugioka, "Tailoring femtosecond 1.5-μm Bessel beams for manufacturing high-aspect-ratio through-silicon vias", Scientific Reports Vol.7, Article number: 40785 (2017), doi: 10.1038/srep40785; Published online: 18 January 2017