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金属よりも丈夫な柔軟複合材料「繊維強化ゲル」を開発 ~ゲルと繊維のイオン結合による強靭性を有する材料~

 北海道大学,国立研究開発法人科学技術振興機構(JST),および内閣府は2017年1月17日,北海道大学大学院 先端生命科学研究院の龔(グン)教授らが,水を大量に含んだハイドロゲルをガラス繊維織物と複合させた「繊維強化ゲル」の創製に成功したと発表した.本研究は内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「超薄膜化・強靱化『しなやかなタフポリマー』の実現」の一環として行われ,成果はAdvanced Functional Materials誌に掲載された(注).

 水を多量に含んだゼリー状のハイドロゲルは,生体とのなじみが良く環境にも優しい材料であるが,もろくて強度が低いため,実際の使用はコンタクトレンズのようなものに限られていた.本研究では繊維強化プラスチックの手法に着目し,ハイドロゲルを繊維と複合化させて強靭化することが試みられた.そのなかで,ゲルマトリックスとして両性高分子電解質であるポリアンフォライト(PA)を使い,強化材に直径10µm程度のガラス繊維の織物を用いると,これまでにないほど丈夫な柔軟材料「繊維強化ゲル」を得ることができた.この繊維強化ゲルは自由に曲げることができる柔軟性を持ちながら,引裂破壊エネルギーは500kJ/m2という高い値を有している.これは一般的な鉄(炭素鋼)の破壊エネルギー1~100kJ/m2,ガラス繊維強化プラスチックの破壊エネルギー約10kJ/m2を遥かに凌駕するレベルである.ガラス繊維織物単体の引裂破壊エネルギーは20kJ/m2,PAゲル単体の引裂破壊エネルギーは4kJ/m2であり,これらに対しても非常に強靭でこの強靭さは単に両者の和ではなく,相乗効果で強靭化されていることが分かる.

 繊維強化ゲルの電子顕微鏡観察から,PAゲルとガラス繊維が強く粘着していることが分かった.粘着のメカニズムは,PAゲル内部に多量に含まれる正電荷と,ガラス繊維表面の負電荷が相互作用したものと推測される.繊維強化ゲルを破壊して亀裂を進展させようとすると,多量に存在するガラス繊維とゲルのイオン結合を破壊せねばならないため,破壊には大きなエネルギーを要すると考えられる.PA内部のイオン結合強度を調整すると,繊維強化ゲルの破壊エネルギーも影響を受けるという,推定メカニズムを裏付ける実験結果も得られている.このメカニズムはゴムの繊維強化にも応用が可能と見られ,研究グループではシリコーンゴムとガラス繊維の複合化を試み,引裂破壊エネルギーが200kJ/m2の強靭な繊維強化ゴムを得たという.

 本研究で得られた繊維強化ゲルは,水が40%も含まれていながら,高い柔軟性と強靭性を有するというこれまでの材料には見られない特徴を持ち,人工靱帯・腱などの強い力の掛かる生体組織の代替材料や,丈夫な柔軟性シートとして服飾,工業用材料などの用途への展開が期待されるという.

(注)Yiwan Huang, Daniel R. King, Tao Lin Sun, Takayuki Nonoyama, Takayuki Kurokawa, Tasuku Nakajima, and Jian Ping Gong, "Energy-Dissipative Matrices Enable Synergistic Toughening in Fabric Reinforced Soft Composites", Advanced Functional Materials, Early View, First published: 13 January 2017; DOI: 10.1002/adfm.201605350.