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テラヘルツ光による黒色ゴム材料の非破壊検査手法を開発 ~自動車タイヤなどの歪計測が可能に~

 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)と慶應義塾大学は共同で2016年12月26日,同大学理工学部物理学科の岡野真人 専任講師と渡邉紳一 准教授の研究グループが,高速で高精度なテラヘルツ(THz)偏光計測装置を用いた新しい黒色ゴム材料の非破壊検査手法の開発に成功したと発表した.本研究は,JST研究成果展開事業 産学共創基礎基盤研究プログラム「テラヘルツ波新時代を切り拓く革新的基盤技術の創出」の一部支援を受けて行われ,原著論文は,英国のオンライン科学誌Scientific Reportsに掲載された(注).

 ゴムなどの弾性材料(エラストマー)は自動車や自転車のタイヤ,ビルの免震装置などに使われる重要な材料で,安全確保のために内部変形などの内部状態の非破壊検査が求められる.ゴム製品の内部に歪がたまると予期しない亀裂などが発生する可能性がある.タイヤや防振ゴムなどに用いられる黒色ゴム材料には,カーボンブラック(CB)が補強剤として配合されているが,その内部状態を検査しようとしても,黒色ゴムは人間の目が感じる可視光や波長が1~300µmにかけての赤外光も透過しないため,光を用いてその内部状態を非破壊で観察することは極めて困難であった.

 これに対して本研究グループは,電波と光の境界にある波長300µm以上(周波数 1THz以下)のTHz光が黒色ゴム材料に対して透過性をもつことに着目した.ゴムは外力が加わると,異方的な形状をもったCB凝集体の並び方が変化する.そこでゴム材料に外力を加えて引っ張りながらTHz波の偏光を用いて屈折率異方性を測定し,CB凝集体の並び方を推測できることを実証した.実験では黒色ゴム材料(20mm×50mm×1mm厚)についてTHz偏光測定(0.1~0.9THz)を行い,①「どの方向」に屈折率が大きいか(屈折率主軸角度),②主軸方向の屈折率とそれと垂直方向の屈折率を比較することで「どの程度」の屈折率差(複屈折)があるかを決定し,③「屈折率主軸角度」と「複屈折」がCB凝集体の整列の仕方に関連することを見いだした.例えば未延伸時(延伸率=1)はCB凝集体が上方向を向いているため,主軸角度は約-90°だが延伸に伴い減少して延伸率3ではほぼ0°で軸が約90°回転する.一方,複屈折は未延伸時に0.1であるが,横方向の延伸率が2のときに,CB凝集体の方向がばらばらになり方向依存性がなくなって0となり,さらに引っ張ってゴム材料を元の長さの3倍まで延ばすと,CB凝集体が再び揃うため増加し0.06以上にもなる.

 偏光測定結果から,材料が「どの方向に」,「どの程度」歪んでいるかを推測することができる.ゴム材料に対するTHz光の透過率は比較的大きいので,ゴム深部の歪も非破壊で検査できる.装置は,市販のTHz分光装置に高速回転(40Hz)する偏光子を取り付け偏光計測できるように改良したもので,小型テーブルに乗る程度に小さく(50cm長),テーブルタップ電源で動作し,一点の計測時間は25msと高速である.

 本研究成果は,THz光を用いた非破壊検査の重要な応用事例となることが期待される.研究グループでは今後,タイヤや防振ゴム内部の非破壊・非接触歪検査への応用計測,空間分解能が数mm程度の歪イメージング,反射型計測装置の開発を計画している.さらに,①計測装置の堅牢化,②高速(10cm/s)イメージング用途への応用など,実用化と普及をめざすとしている.

(注) Makoto Okano & Shinichi Watanabe, "Anisotropic optical response of optically opaque elastomers with conductive fillers as revealed by terahertz polarization spectroscopy", Scientific Reports Vol. 6, Article number: 39079 (2016), doi:10.1038/srep39079; Published online: 23 December 2016