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燃料電池材料の新しい設計方法を実証 ~高効率・低コスト膜の開発に道~

 北陸先端科学技術大学院大学(北陸大)と名古屋大学(名大)は2014年3月25日,北陸大マテリアルサイエンス研究科の長尾 裕樹准教授と名大ベンチャービジネスラボラトリー永野 修作准教授らが,燃料電池材料の心臓部である水素イオン交換膜の水素イオン伝導性をポリマーの配向性の利用により高性能化することに成功したと発表した.本研究成果は,共同開発成果であり,名大「分子・物質合成プラットフォーム」事業(文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業)の支援を受け,日本学術振興会:最先端・次世代研究開発支援プログラム「ナノプロトニクス燃料電池の創成」の助成により得たものである.また,本成果は,2014年3月27日,英国王立化学会誌Journal of Materials Chemistry A電子版に掲載された(注).

 次世代エネルギー源の一つとして注目される燃料電池を構成する多くの材料には,高性能化や低コスト化が急務の課題となっており,水素-酸素型燃料電池やメタノール形燃料電池などの固体高分子形燃料電池の心臓部となる水素イオン交換膜に対しても同様である.その解決のために多くの材料開発がなされ,現在はNafionという材料が水素イオン交換膜に使われている.しかし,この材料の構造は疎水性部分と親水性部分との複雑な構造となっており,性能向上には一層複雑・煩雑な材料合成が不可欠であるため製造コストの増大などが問題となっている.

 本研究者らは,ポリマーの分子配向を揃えることで水素イオン伝導性を向上させるという新しい方法を示してきたが,Nafionではその分子配向が難しかった.そこで,より配向性の高い材料であるポリイミドに着目し,配向構造を有するポリイミドを用いると水分子を取り込んでの水素イオン伝導性がNafionを超えることを見出した.用いた材料は,強酸性のスルホン酸基を側鎖に結合させたスルホン化ポリイミドである.これは,官能基保護手法を用いたスルホン基置換反応により3,3'-ビス(3-スルホプロポキシ)ベンジジンを得,これを1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物と反応(イミド化)させて得たもので,剛直な主鎖構造や豊富な分子間相互作用,高い化学的安定性などの特徴がある.そのため,このポリイミドを配向させた膜(配向膜)は,石英基板上にスピンコート法で成膜するだけで作製することが可能となった.得られた配向膜の室温での電気伝導特性は,Nafionの5倍という高い導電率を示し,薄膜の構造は水とポリマーの層が層状サンドイッチ構造のラメラ構造(規則的構造)となり,ライオトロピック液晶性を有することが分かったという.この規則的構造と化学的構造のために,湿度を上昇させると配向膜の状態のまま層間に水分子を取り込み,水素イオンが流れる道が広がり,これによって水素イオン伝導性が向上したとしている.

 本成果により,分子の形成するナノ構造と水素イオン輸送の相関性や輸送メカニズムが明らかとなり,今後の材料設計の重要な知見が得られたという.つまり,ポリマーの配向性即ち水素イオンが流れる道のナノ構造の制御が水素イオン伝導性向上に重要であることが示されたとしている.本成果が,高効率・低コストの水素イオン交換膜の製造そして環境にやさしい燃料電池などへの応用が期待される.

(注)Karthik Krishnan, Hiroko Iwatsuki, Mitsuo Hara, Shusaku Nagano, and Yuki Nagao, "Proton conductivity enhancement in oriented, sulfonated polyimide thin films", Journal of Materials Chemistry A, 2014, Advance Article DOI: 10.1039/C4TA00579A, Paper First published online: 27 Mar 2014