参画機関から

分子・物質合成 北陸先端科学技術大学院大学 北陸先端科学技術大学院大学

還元・構造修復した酸化グラフェン薄膜からバンド伝導を初めて観察 ~高結晶性グラフェン薄膜のスケーラブル合成への道筋を開拓~

 大阪大学は2016年7月1日,同大学大学院工学研究科・根岸 良太 助教と小林 慶裕 教授,北陸先端大・赤堀 誠志 准教授,名古屋大・伊藤 孝寛 准教授,あいちシンクロトロン光センター 渡辺 義夫 リエゾン副所長らとの共同研究により,還元・構造修復させた酸化グラフェン薄膜からグラフェン本来の優れた電気伝導特性であるバンド伝導の観察に初めて成功したと発表しました.本研究成果は,英国の科学オープンアクセス誌「Scientific Reports(Nature Publishing Group)」に掲載されました.

 酸化グラフェンはグラファイトから化学処理により大量に合成できるため,グラフェン大面積形成に向けた出発材料として世界中で研究が活発化しています.一方,デバイス応用では酸素を除去するための還元処理が必須となりますが,処理後に得られるグラフェン薄膜は構造が大きく乱れており,このため電気伝導特性も著しく低下することが大きな問題でした.研究グループは,還元過程において微量の炭素源ガスを添加した1100℃以上の高温加熱処理により構造の乱れを修復し飛躍的に結晶性を向上させる独自の手法により,還元処理をした酸化グラフェン薄膜においてグラフェン本来の電気伝導特性を反映したバンド伝導の観察に初めて成功しました(図1).この発見は,修復に必要な炭素源ガスの量や温度・ガスの流速など非常に多くの処理パラメータを最適化することで達成されました.このバンド伝導の発現により,還元処理をした酸化グラフェン薄膜としては現状最高レベルのキャリア移動度(~210cm2/Vs)が得られました.実際,バンド伝導の発現を裏付けるデータとして,X線吸収微細構造スペクトルを実施して電子構造の視点からもこの物性を実証し,ミクロ領域の構造解析法である透過型電子顕微鏡観察からも結晶性の向上を明らかにしました(図2).本研究の成果はグラフェンの優れた物性を活用したスケーラブルな材料開発の進展において重要なマイルストーンとなり,大面積グラフェン薄膜を利用したフレキシブルな電子デバイスやセンサーへの応用が期待されます.



図1 酸化グラフェンの還元法に対する(a)従来法と(b)本手法との比較.処理温度の異なるエタノール還元処理後の酸化グラフェン薄膜の伝導度における観察温度存性(c)900℃(低結晶性),(d)1130℃(高結晶性).伝導機構モデルに基づく伝導度の温度依存性解析から,1130℃の高温エタノール加熱還元処理した酸化グラフェン薄膜では観察温度が室温から40Kの範囲においてバンド伝導が観察されている((d)のグラフ).


 
図2 処理温度の異なるエタノール加熱還元処理後の酸化グラフェン薄膜の透過型電子顕微鏡像(a)900℃,(b)1100℃.処理温度1100℃では炭素原子の蜂の巣構造を反映した輝点が周期的に配列しており,結晶性が飛躍的に向上していることが分かる.


 なお本研究の一部は,大阪大学フォトニクス先端融合研究センター,「低炭素研究ネットワーク」ナノテクノロジーハブ拠点である京都大学,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(分子・物質合成PF)支援施設である北陸先端科学技術大学院大学で実施されました.