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人工的に設計したタンパク質による金属ナノ結晶の生成 ~バイオミネラリゼーションを利用したタンパク質の新素材~

 国立研究開発法人 理化学研究所(理研)と横浜市立大学は2015年8月26日,理研ライフサイエンス技術基盤研究センター 構造バイオインフォマティクス研究チームのケム・ツァンチームリーダー,アルノウト・ヴット国際特別研究員と,横浜市立大学大学院生命医科学研究科のジェレミー・テイム教授らの共同研究グループが,金属と結合するピザ型タンパク質を設計し,規則正しく配列した7個のカドミウムイオンと12個の塩化物イオンから成る世界最小のナノ結晶を作ることに成功したと発表した.原著論文は,ドイツの化学誌Angewandte Chemie International Editionに掲載された(注).

 生物はしばしば,カルシウムなどの金属イオンを生体材料として用いるバイオミネラリゼーションを行い,リン酸カルシウムで歯や骨,炭酸カルシウムで貝殻などを作っている.バイオミネラリゼーションでは,タンパク質の働きにより微小な無機結晶が形成され,複雑な微細構造が組み立てられるので,バイオミネラリゼーションを模倣した,ナノスケール部品の人工的合成が試みられている.しかし,タンパク質がどのようにバイオミネラルを形成するかについてはまだ不明な点が多く残されていた.

 先に,研究グループは,タンパク質が自己組織化する性質を利用して,自然界には存在しない完全6回回転対称型構造(6つの正三角形要素が正六角形を構成)を持つ「ピザ型タンパク質」を設計し,作製することに成功している.このピザ型タンパク質(Pizza6)は42個のアミノ酸からなるドメインを6つ持ち,これらのドメインが自己組織化することで安定なピザ型構造をとる.一方,ドメインが2つしかないタンパク質(Pizza2)も,自己組織化により3量体を形成して「1枚のピザ」を作ることができる.そこで,この自己組織化を促進する領域を削除し,さらにピザの中心に位置するアミノ酸を金属と結合する性質を持つアミノ酸(ヒスチジン)に変えた新しいタンパク質「nvPizza2-S16H58」を設計し,遺伝子組換えにより大腸菌で発現させた.nvPizza2-S16H58は溶液中で単量体と3量体の平衡状態にあるが,塩化カドミウム(CdCl2)の添加により3量体の比率が大きく高まる.この条件で結晶化させて,理研の大型放射光施設SPring-8でX線結晶構造解析を行ったところ,nvPizza2-S16H58の3量体は3回回転対称型構造を持ち,オリジナルのピザ型タンパク質(Pizza6)と基本的に同じ形をしていた.またCdCl2は,向かい合った2つの3量体に挟まれて存在し,7個のCdイオンと12個の塩化物イオンが規則正しく配置したナノ結晶を形成していることが分かった.このナノ結晶は幅1.3nm×1.2nm,厚さ0.7nmのナット状の形で,これまで報告された中で最小のナノ結晶という.これらの結果は,nvPizza2-S16H58の自己組織化がCdCl2により促進され,3量体となったタンパク質がCdCl2のナノ結晶を形成するバイオミネラリゼーションを行うことを示している.

 今後,バイオミネラリゼーションのメカニズムの解明や,タンパク質をナノスケール部品として用いる医薬品やバイオセンサーなどの開発への応用が期待できるとのことである.

(注)Arnout R. D. Voet, Hiroki Noguchi, Christine Addy, Kam Y. J. Zhang, and Jeremy R. H. Tame, "Biomineralization of a Cadmium Chloride Nanocrystal by a Designed Symmetrical Protein", Angewandte Chemie International Edition, Vol. 54, No. 34, pp. 9857-9860, August 17, 2015; Article first published online: 1 JUL 2015, DOI: 10.1002/ange.201503575