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NanotechJapan Bulletin Vol.7, No.2, 2014 発行

企画特集 10-9 INNOVATIONの最先端 〜Life & Green Nanotechnologyが培う新技術〜
<第18回>
ナノアロイ®による新素材の創出
nano tech大賞 2014 受賞
東レ株式会社 化成品研究所 樹脂研究室 小林 定之氏に聞く

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 nano tech 2014国際ナノテクノロジー総合展は,「"Life & Green Nanotechnology" 10-9 Innovation」をメインテーマにして2014年1月29日〜31日に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催された.その最終日に優れた展示に対する表彰式が行われ,600を超える出展者の中から東レ株式会社がナノテク大賞に選ばれた.受賞理由は「ナノファイバー,導電性フィルムなど多彩なナノマテリアルに加え,DNAチップなどのバイオデバイスも出展.nano techの大テーマである「ライフナノテクノロジー」「グリーンナノテクノロジー」両分野の研究・技術開発と事業化を推進する総合力を賞す」とのことであった.東レのブースでは多彩な展示品の中の目玉として,新素材創出の基盤として開拓されたナノアロイ®のコーナーが特設されていた(ただし,本稿では便宜上,ナノアロイ®[1]を,同社の技術および同技術により生み出されたポリマーを指すものとして表現する.).今回,大賞受賞の展示の中から,特にナノアロイ®に焦点を当て,その研究・技術開発を担当された東レ株式会社 化成品研究所 樹脂研究室 主席研究員 小林 定之(こばやし さだゆき)氏に東レ東京本社の会議室で話を伺った.


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(写真左) nano tech 2014実行委員会 川合知二 委員長と東レ 常務取締役 出口雄吉 研究本部長
(写真右) 東レ(株) 化成品研究所 樹脂研究室 小林定之氏


1.ポリマーアロイの進化

 合成樹脂であるポリマーは,色々な特長をもっており,20世紀後半には製品開発が活発化し,民生品や産業用途等に各種製品が広く普及してきている.ポリマーへのニーズがますます多様化し,また高度化するのに応えるべく,異なるポリマーを複合化して特性の相乗効果の発現を狙うポリマーアロイの研究開発が活発に行われてきた.図1に示すように,その始まりは1950年ころである.初めの頃に開発されたABS(アクリルニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂)は3種類のポリマーの共重合による製品であるが機器の筐体や建材などに広く使われている.その後,図に示すように二つのポリマーを混合する試みが多くなされているが,ポリマーは,数万〜数10万個もの分子が結合した高分子であるので,原子が単位である金属と異なり基本的に金属合金(アロイ)のようには混じり合わず,ミクロンメーター以下のサイズでの微細構造で混じり合うことはなかった.唯一の例外は米国GE社が開発したPPE/PS(ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン)であった.東レが開発してきた製品は黒丸で示したもので,主として高衝撃性を狙ったゴム材料との混合物である.これら一連のアロイ成分はいずれも数ミクロンメーターレベルでの分散であり,特性も混合させる2種のポリマーの特長を合わせ持つという開発の思惑は十分には達成されていない.


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図1 ポリマーアロイの研究開発動向


 2000年前後になって,ポリマーの分散を数十nmレベルまで微細化するという新たな動きが出てきた.技術革新により微細化へのブレークスルーがもたらされ,新しい特徴が出てきて,パラダイムシフトが始まった.nano tech 2011展示会で10周年記念に作られたナノテク年表には2001年の出来事として「ナノアロイ®」が挙げられ,「東レの小林定之らが非相溶な2種の高分子を自己組織化技術により相互にナノレベルで共連続混合したアロイ樹脂(ナノアロイ®)を開発しました.」と記されている.ちなみに,東レは「複数のポリマーをナノメートルオーダーで微分散させることで,従来材料と比較して飛躍的な特性向上を発現させることができる独自の革新的微細構造制御技術」をテクノロジー・ブランドであるナノアロイ®として定義し,広い商品範囲で商標登録しており,また,"nanoalloy"のロゴも作成し,国内外で商標登録している.

 図2はナノ領域まで微細化した時に起こる現象を示すモデル図である.混合するポリマーの界面には両者が入り混じる10nm程度の境界領域がある.ポリマーのサイズが微細になると比表面積が増え,界面領域の量が急増する.この領域が新しい特性を生むことになる.


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図2 ナノアロイ®のコンセプト


2.ナノアロイ®の誕生 [2][3]

 東レにおけるナノアロイ®の研究・技術開発は,1999年に当時化成品研究所の所長で理事の井上俊英氏による"理想的ポリマーアロイ創出を使命とした革新的研究のグループ結成"に始まる.この分野に精通した若手の研究者である小林氏がその担当者となった.小林氏は学生時代からポリマーアロイの研究に従事しており,就職に際してもポリマーアロイの研究・技術開発の実績を積んでいる東レを選択したとのことである.この新設の研究グループは,ポリマーアロイの研究・技術開発の進展が飽和状態にある中で,新たなブレークスルーを見つけるべく,日夜模索を続けるうちに,プラスチックで自然に作られる形や配列構造の美しさに魅せられていったと云う.ここから「この自己組織化現象を利用してプラスチックの中に数十nmレベルでの配列構造ができないか?」という発想が生まれた.研究者たちは世界初の革新的構造のプラスチックを作り出そうとの意欲に燃えて種々のプラスチックを様々な方法で混合させては顕微鏡で観察することを連日繰り返した.そしてある日遂に2種類のプラスチックが連続的に繋がって規則正しく混ざり合う構造が顕微鏡の視野一杯に現れた.その特性を調べ,2種類のプラスチックの特性が活かされており,更にそれを上回る特性を発現することが分かった.共連続構造型ナノアロイ®の誕生である.

 一方,2001年NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「精密高分子技術」プロジェクトがスタートし,東レは同プロジェクトの研究・技術開発項目「高機能高分子材料の実用化技術開発」の中で,研究テーマ「自動車用構造材の開発」に参加した.このテーマは,「特異な粘弾性特性を有する耐衝撃ポリアミド系ナノアロイ®と,耐衝撃性50kJ/m2以上かつ現行材料以上の耐熱性を有する耐衝撃・耐熱ポリアミド系ナノアロイ®を開発する」ことを狙いとしており,山形大学大学院機能高分子工学専攻 教授 井上隆氏がリーダーである.研究・技術開発は山形大学における集中研方式でおこなわれ,東レの小林グループから7年間3名が交替で出向した.井上氏は複数のポリマーを2軸押出機の中で化学反応溶融混練する"リアクティブプロセッシング"という技術に着目していて,グループはこの手法による研究・技術開発を追及した[4][5][6].リアクティブプロセッシングとは,2種類の材料の接触面で官能基同士が化学反応して結合し,密着強度を高める技術である.井上氏らは化学反応溶融混練の時間を長くし,化学反応物の剪断を繰り返したところ,反応物が接触面から遊離し,ミセル化して分散していることを見出した.井上氏と議論しながら研究を進めていた東レの担当者は,反応生成物の引っ張り特性が異常であることに気が付いた.反応生成物は普通のプラスチックと異なり,高速で引っ張った際に降伏点が現れず破断しないということである.このようにして"ナノミセル型アロイ"が誕生した.なお,化学反応溶融混練の時間を長くするために,2軸押出機のスクリューの長さ(L)3.77mを実現し,スクリューの径(D)との比,L/Dを従来の3倍の100に高めた装置を開発することで,このナノアロイ®の研究・技術開発が実現した.図3は開発した2軸押出機の写真である.この装置は,11箇所の樹脂温センサー,7箇所の樹脂圧センサー,6箇所のサンプリングバルブも装備しており,実験機ならではの機動性,解析性を重視した構成になっている.


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図3 開発したL/Dが100の2軸押出機


 その後"ナノミセル型アロイ"を生産体制に持ち込むために,この実験機と同等の能力を既存の長さの押出機で実現する実用機に仕上げている.その開発に当たっては,実験機に備えたセンサー類やサンプリングバルブもフルに活用して2軸押出機内部の設計・動作条件やリアクティブプロセッシングでの化学反応の進行状況を詳細に評価・検討する努力がなされたことを小林氏は付け加えた.

3.共連続構造型ナノアロイ® [7][8]

3.1 ナノアロイ®の形成

 異種ポリマー同士を溶け合わし,相構造をナノレベルで制御する技術は次のようにして出来上がった.例として耐薬品性,高成形性の結晶性プラスチックPBT(ポリブチレンテレフタレート)と耐衝撃性,高寸法精度の非結晶性プラスチックPC(ポリカーボネート)とをアロイ化する場合をとりあげる.

 先ず,剪断力を効果的に加える手法を取り入れた押出機に両ポリマーを投入すると,剪断力の働いている機内では分子オーダーで均質に溶けた融体となる.しかし,押出機の口金を出た途端に均一系から不均一系に相転移して分離した構造を形成してしまう.そこで,口金を出た直後のまだ均一状態のポリマーを急冷して構造を凍結し,両ポリマーの分子レベルで結合した界面を,シンクロトロン放射光によるX線散乱構造解析で測定・解析し,その結果を基に,両ポリマーの化学構造と特性に適合する親和性改質剤の分子設計をした.これを両ポリマーに加えて押出機に投入したところ,両ポリマーが数十nmのオーダーで入り混じりそれぞれは連結した構造をとる共連続型ナノアロイ®が出現した.図4は,従来アロイ化手法のものと,この新しい混合手法のものとを比較して,その構造を示す. ナノアロイ®の場合,着色した図は,白で表示したPBTと青で表示したPCの領域が微細かつ均一に入り混じり,それぞれが繋がっている様子を示している.


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図4 共連続構造型のPBT/PC ナノアロイ®の構造

3.2 共連続構造型ナノアロイ®の特性評価

 図5はPBT/PCが50/50%のナノアロイ®についての特性評価結果例である.靱性(粘り強さ)はPCを100として各サンプルの値を示している.耐薬品性評価では,元のPBTの曲げ強度を100として,クロロホルムに1時間浸した後の各サンプルの強度を現わしている.ナノアロイ®では混合したにもかかわらず,靱性の劣化が起こらず,さらに,耐薬品性も良好なまま,保たれている.即ち,ナノアロイ®により,従来技術では出来なかったPCが持つ靱性とPBTが持つ耐薬品性を併せ持つことが実現したことを示している.


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図5 共連続構造型のPBT/PC ナノアロイ®の特性上の特長


 次に,具体的な亀裂の伸展状況の観察を行った.図6に示す方法で亀裂の入った切片を切り出し透過型電子顕微鏡で調べた結果を図7〜9に示す.PCやPBTは直線的に亀裂が入るが,ナノアロイ®では亀裂が曲がったり分岐したりしており,応力が分散される様子が見て取れる.


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図6 亀裂入り試料製作


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図7 PCの亀裂の観察


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図8 PBTの亀裂の観察


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図9 ナノアロイ®の亀裂の観察


 更に,亀裂の伝搬速度の測定を行った.測定法は図10に示すように,厚さ3mmの試験片に設けた切れ込みの先にクラックゲージを貼り付け,試験片に繰り返し引張り力を加え,切れ込みの先に発生する亀裂の進行を測定するものである.クラックゲージは亀裂の進行によってゲージグリットが順番に切断され,これを抵抗の変化として検出する.図11はその測定結果で,共連続ナノアロイ®は従来アロイに比べて亀裂の始まりが一桁以上遅いことが分かる.これは前述の亀裂の形状から推定されるように,分散粒子のナノサイズ化により,亀裂の発生が複雑に変化し,粒子間のあちらこちらで,歪が緩和されたことによるものであると考えられる.


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図10 亀裂の伝搬速度測定手法


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図11 亀裂の伝搬速度測定結果


3.3 共連続構造型ナノアロイ®の特長と応用展開

 ナノアロイ®開発の狙いは異なるポリマーをアロイ化する際,これまで不可能であった「両者の特長を兼ね備えた材料」の実現であったが,上記PBTとPCのナノアロイ®はこれを可能とした.即ち,PCが持つ靱性,PBTが持つ耐薬品性と流動性を同時に備えている.その上,曲げ弾性率ではPCとPBTを凌いでいる.このような特徴があるので,従来不可能であった新しい分野にポリマーを適用しポリマーのメリットを発揮することが期待される.例えば,自動車部品での金属部品を置き換えることで軽量化が図れる箇所も多い.金属より加工し易いので設計の自由度や生産工程の簡素化も実現できる.電気・電子部品などの射出成形用途なども含めて,すでに適用が始まっている.

4.ナノミセル型ナノアロイ® [3][8]

 上述の共連続構造型ナノアロイ®においては,異種ポリマー同士を一旦溶かすことによって,ナノ構造を実現することができたが,異種ポリマー同士が溶けあわない非相溶なポリマー同士でもナノアロイ®を実現できるのが,リアクティブプロセッシング技術による微分散構造のナノミセル型ナノアロイ®である.

4.1 ナノミセル型ナノアロイ®の形成

 図12は,リアクティブプロセッシングと剪断を繰り返すことにより微細分散が進行する過程を示している.緑で表示するAと青で表示するBの2種類のポリマーをアロイ化する場合,例えばBとして図12にYで示すアミノ基(NH2)やカルボキシル基(COOH)官能基を持ったポリマー(例えばポリアミド)を用い,AとしてXで示すエポキシ基や無水マレイン酸(MAH)を有するポリマーを用いると,両タイプの官能基が結合してグラフト共重合体が出来る.通常この結合はA,B両ポリマーの密着性を高めるために行う化学反応であるが,ここでは,剪断を繰り返すことにより,結合して出来たグラフト共重合体を次々に引き抜く.この引き抜かれた緑と青の結合したグラフト共重合体の緑の部分は,青のポリマーの中では不安定であり,複数が集まって自己組織化により数十nmのサイズのミセルを形成する.このようにしてAとB両ポリマーはナノサイズで分散化する.


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図12 リアクティブプロセッシングと剪断によるミセルの形成


 図13はポリアミド(PA)と反応性ゴムとのナノアロイ®の電子顕微鏡写真である.左の走査型電子顕微鏡写真ではポリアミドは染色されていて黒く胡麻塩的に見えるのはミセルである.右の3次元電子顕微鏡[9]では,写真は見やすくするため白黒反転しているので白がミセルで,奥の方までその存在が分かる.


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図13 走査型電子顕微鏡および3次元電子顕微鏡写真による観察


4.2 ナノミセル型ナノアロイ®の特異な特性の検証

 このナノアロイ®の特長を確認する二つの実験を紹介する.

 まず,つくばの日本自動車研究所で高速大型落錘試験を行った.試験材料で直径50mm,高さ150mm,厚さ2mmの筒状のサンプルを作って,この上に重さ193kgの錘を0.5mの高さから落下させる試験である.サンプルとしてポリアミド,高衝撃ポリアミド及びナノミセル型ナノアロイ®を採りあげ比較試験を行った.ポリアミドは粉砕し,高衝撃ポリアミドは割れる.しかし,ナノミセル型ナノアロイ®は,図14に示すように潰れるが,破壊することはない.


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図14 高速大型落錘試験でナノミセル型ナノアロイ®が潰れる様子を示す.
動画はこちら http://www.nanoalloy.jp/effect/eff_003.html


 もう一つの実験は,引張試験時の温度変化の評価である.図15に示すように100mm/分の低速で引っ張る場合と1000mm/分の高速で引っ張る場合について従来アロイとナノアロイ®の表面温度を測定している.低速の場合は温度上昇が若干で差は少ない.高速になると,断熱変形により従来アロイでは局部的に高温になり破断してしまうが,ナノアロイ®では発熱は広い範囲に分布し柔軟化するので破断しない.


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図15 引張試験時の温度変化


 このようなナノアロイ®の特異な特長を理解するため,東北大学准教授中嶋氏の協力を得て,AFM(原子間力顕微鏡)を用いる弾性マッピング[10](注)によるナノアロイ®の構造の機械的評価を行った.その結果を図16に示す.青で示される硬いポリアミドの領域と,赤で示される柔らかい反応性ゴムの領域と,その境界に黄緑の中間弾性率の領域が存在しており,従来アロイに比べて,ナノアロイ®の場合は反応性ゴムが微細化して分散し,中間領域が増加し互いに接続する状態にあることが分かる.ナノアロイ®に応力を加えた場合に,この中間弾性率相の運動性が高いことから応力を分散させ歪みエネルギーを吸収する効果を発揮すると考えられる.このことから図15の実験を考察すると,高速に力が加えられた場合は,その力を広い範囲に分散して吸収するので広い範囲で温度が上がりアロイが柔らかくなるが,低速の場合は発熱しても逃げる熱が多いので温度は上がらず,従って硬いままである.


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図16 弾性率マッピング(AFMにより測定)


 このように,ポリアミドと反応性ゴムのナノミセル型ナノアロイ®では,2つの相の間にできる中間弾性率の物質が,機械的性質に大きな影響を持つことで,新らたな特性発現をもたらしていると考えている.

(注)この評価法については,本NanotechJapan Bulletin, Vol. 6, No. 5に「AFMによる機械的特性の計測評価」として紹介されている.

4.3 ナノミセル型"ナノアロイ®"の応用展開

 以上の実験および構造解析から,ポリアミドと反応性ゴムのナノミセル型ナノアロイ®は,普段は硬いプラスチックであるが,急な衝撃力に対してはゴムのように柔らかく変形し復元すると云う革新的な機能を発揮することが検証された.

 こうした特性をもった材料のアプリケーションについては,スポーツ用道具,衝撃エネルギー吸収による歩行者保護用の自動車外装部材や搭乗者保護用内装部材などから適用が進められており,また落下しても破損を防止できる携帯電子機器むけの筐体なども考えられている.既にスポーツ用途では,テニスやバトミントンのガットやスノーボードのビンディングなどに製品化されている.この開発成果の発表を受けて2007年の2月1日の新聞各紙がこの衝撃エネルギー吸収プラスチックの記事を掲載した.

5.おわりに

 人々の日常生活の中で,また産業界や輸送システムなどで広く使われているプラスチックの世界に,これまでの常識を超える特性を持つ新材料を創出する技術"ナノアロイ®"の話を伺った.プラスチックに新しい価値を付加してその適用範囲を広げ,器具や部品類の経済性,安全性,利便性,環境改善に貢献することが期待される.

 この革新技術の生まれる過程には,関連分野での積み重ねられた経験と,飛躍的発想と,不断の努力があった.技術的な鍵はナノテクノロジーである.その鍵を開く上で重要なのは,計測・評価技術である.小林氏も最近の測定・評価技術の進歩が革新材料創出を可能にしたと語っている[11].例として放射光X線散乱構造解析,3次元電子顕微鏡,AFMによるナノ領域での機械特性評価技術などが挙げられる.そうした諸技術の活用を含めて産学官連携や異分野融合がまた重要な役割を果たしている.

 ナノアロイ®の今後の展開については,「ナノアロイ®の構造体は出来上がったので,今後は,応用展開に対応してサイズの制御など製品としての質の改善,並びに新しいアロイ材料系の開拓などを進める」と小林氏は述べられた.ナノアロイ®の応用の広がりと技術の進展に期待したい.

参考文献

[1] 東レ ナノアロイ® 特別ウェブサイト
http://www.nanoalloy.jp/

[2] 東レホームページ>東レのテクノロジー>開発ストーリー>nanoalloy 樹脂「ナノアロイ®開発秘話」
http://www.toray.co.jp/technology/technology/story/sto_002.html

[3] NEDOホームページ,NEDOプロジェクト実用化ドキュメント シリーズ4
「高速・強衝撃で柔らかくなるプラスチック」
http://www.nedo.go.jp/hyoukabu/jyoushi_2012/toray/

[4] P. Charoensirisomboon, T. Inoue, and M. Weber, "Interfacial behavior of block copolymers in situ-formed in reactive blending of dissimilar polymers", Polymer, Vol. 41, Issue 12, pp. 4483-4490 (2000).
[5] P. Charoensirisomboon, T. Chiba, T. Inoue, and M. Weber, "In situ formed copolymers as emulsifier and phase-inversion-aid in reactive polysulfone/polyamide blends", Polymer, Vol. 41, Issue 15, pp. 5977-5984 (2000).
[6] P. Charoensirisomboon, T. Inoue and M. Weber, "Pull-out of copolymer in situ-formed during reactive blending: effect of the copolymer architecture", Polymer, Vol. 41, No. 18, pp. 6907-6912 (2000)
[7] 小林定之,""ナノアロイ"樹脂の技術開発",JETI, Vol. 56, No. 7, pp. 6-8 (2008).
[8] 小林定之,"ポリマーナノアロイ——ポリマーアロイ分野のナノテクノロジー", 未来材料,Vol. 10, No. 9, pp. 52-55 (2010)
[9] H. Jinnai, H. Hasegawa, Y. Nishikawa, G. J. Agur Sevink, M. B. Braunfeld, D. A. Agard and R. J. Spontak, "3D Nanometer-Scale Study of Coexisting Bicontinuous Morphologies in a Block Copolymer/ Homopolymer Blend", Macromolecular Rapid Communications, Vol. 27, Issue 17  pp. 1401-1504 (2006).
[10] T. Igarashi, S. Fujinami, T. Nishi, N. Asao, and K. Nakajima, "Nanorheological Mapping of Rubbers by Atomic Force Microscopy", Macromolecules, Vol. 46, Issue 5, pp. 1916-1922 (2013).
[11] 小林定之,""ナノアロイ"技術と今後の展開(上)——ポリマーアロイの基礎とアロイ化技術の進展",月刊プラスチックエージ,Vol. 60, No. 3 (2014).

※図は全て小林氏から提供されたものである.

(向井 久和)

「10-9 INNOVATIONの最先端」 企画特集は, NanotechJapan Bulletin と nano tech のコラボレーション企画です.
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